研究実績の概要 |
本研究の目的は,東京圏でプライマリ・ケアを実践するために必要な高度実践看護師のコンピテンシー・モデルを開発することである. 2020年度は,高度実践看護師が日本の大都市圏においてプライマリ・ケアを居宅で提供するために必要なコンピテンシーの尺度を開発することを目的に,地域医療現場のニーズという点に着眼し,人口200万人以上の大都市圏で訪問診療や往診に携わる診療所・病院の医師または看護師,訪問看護師,高齢者施設に勤務する看護師に対して質問票調査を実施した.309名からの回答を分析対象とした.プライマリ・ケア分野高度実践看護師のコンピテンシーに関する複数の変数の関係性をもとに因子構造について検討するため,探索的因子分析を実施した.その結果,【居宅で日常的に施される的確なプライマリ・ケア】【地域に根ざした協働志向】【居宅で自律的な判断のもと行われる終末期診療】【居宅での応急対応】【看護専門職としての立ち位置】【居宅で自律的な判断のもと行われる検査と薬物処方】の6因子からなるコンピテンシー尺度を抽出した。つづいて,コンピテンシー尺度の構成概念妥当性を検証するために,確認的因子分析によって因子構造モデルの適合度を算出した.尺度の信頼性については,Cronbachのα係数(信頼性係数) を算出し,内的整合性の検証を行った. 本尺度の妥当性と信頼性について検証した結果,統計量的に許容範囲であり,プライマリ・ケアに貢献しうる高度実践看護師のコンピテンシー尺度として6因子46項目のそれぞれについて,概念や特性を適切に反映できている点が示唆された. また,高齢・多死社会にある日本において居宅での終末期療養や看取りを可能とするには,その先進国である米国の知見を得る必要がある.従って,米国の先行研究を概観し,高度実践看護師が具備すべき居宅ホスピス・ケアにおける職能に関する検討も開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度においては,定量調査に用いる質問項目を明確にしたうえで,地域医療に携わる医療専門職者に対して質問票調査を実施した.その調査結果より,6因子46項目からなるコンピテンシー尺度を作成した.なお,その研究成果の一部は,「日本医療福祉政策学会2020年度研究大会」で発表した.そして,コンピテンシー尺度の開発に関する全容については関連学会誌に投稿する予定であり,その準備を開始した. また,東京圏に在住する中年世代に対して実施した「高度実践看護師から居宅療養生活支援を受けるとした場合どういったコンピテンシーを当該看護師に求めるのか」に関する面接調査の結果をまとめた論文は,「医療福祉政策研究第4巻第1号」に掲載された.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度では,定量調査結果の分析から導き出した6因子46項目からなるコンピテンシー尺度の実用性を検証するために,特定行為研修を修了したのち地域医療に携わる看護師に対して定性調査を実施する. なお,この定性調査を確実に実施できるよう,調査補助スタッフを起用する. また,日本で居宅ホスピス・ケアを推進するにあたっては高度実践看護師の活用が必要になると考え,米国の居宅ホスピス・ケアに関する先行研究の一部を概観し,終末期ケアにおける高度実践看護師のコンピテンシーに関する検討を継続する.なお,この研究成果については学術論文として2021年度内に関連学会誌で発表する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度から,高度実践看護師が具備すべき居宅ホスピス・ケアにおける職能について検討している.その検討を継続するにあたり,米国の文献を収集するために費用が必要になる.さらに,コンピテンシー尺度の実用性に関する検証のため特定行為研修を修了した看護師に対して定性調査を実施する予定であり,その調査費用にもあてる.
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