研究課題/領域番号 |
19K19403
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大久保 寅彦 北海道大学, 保健科学研究院, 講師 (90762196)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 薬剤耐性菌 / 原生生物 / 下水 |
研究実績の概要 |
病院汚水中に存在する薬剤耐性菌を解析するため、病院マンホール汚水(n=5)、一般施設マンホール汚水(n=8)からセフォタキシム2mg/L添加マッコンキー寒天培地で分離した菌株を解析した。その結果、病院マンホール汚水に含まれるセフォタキシム耐性菌数は一般マンホール汚水よりも有意に多いことが分かった。大腸菌に絞って薬剤耐性菌を分離した結果、病院および一般施設汚水のどちらからもblaCTX-M-1groupやblaCTX-M-9groupの基質域拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌が分離された。ただし、病院汚水由来ESBL産生大腸菌がフルオロキノロン系のシプロフロキサシンにも耐性を示したのに対し、一般施設汚水由来ESBL産生大腸菌はシプロフロキサシン感受性であったことから、病院汚水由来大腸菌は多剤耐性化の傾向が進んでいることが示唆された。このことから、病院汚水のスクリーニング検査によって薬剤耐性菌の出現状況が病院レベルで網羅的に検査できるものと考えられる。 薬剤耐性菌分離に加え、原生生物の分離を試みた結果、繊毛虫の一種であるAnteglaucoma harbinensisを病院マンホール汚水から分離することに成功した。本研究室は過去の研究で、実験室株の繊毛虫(Tetrahymena)が薬剤耐性菌のプラスミド伝達を促進することを明らかにしている。そのため、今回得られた野外由来繊毛虫についても、薬剤耐性菌のプラスミド伝達を促進するかどうかを検証した。Antegraucomaと供与菌(blaNDM-5保有大腸菌)・受容菌(リファンピシン耐性変異大腸菌)を15℃で共培養した結果、接合伝達頻度は4.26x10^-5となり、供与菌・受容菌のみの場合での伝達頻度(1.95x10^-5)よりも高頻度にはなったものの有意差は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
病院マンホール由来サンプルからの耐性菌分離および原生生物分離を実施できたとともに、下水処理場からの放出水をサンプリングする採取地点と採取方法を確立できたため、予定していた作業は実施することができた。研究成果は英語論文として公開している。一方、当初は野外由来繊毛虫が実験室繊毛虫と同様に薬剤耐性菌のプラスミド伝達を促進することを想定していたが、実験では有意差がみられず、仮説とは異なる状況となっているため、温度などの実験条件を見直す必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
病院マンホール汚水からの薬剤耐性菌および原生生物の分離に成功したため、令和2年度はマクロなスケールで同様の実験を行なう。札幌市水道局の所管する新川水再生プラザ(下水処理場)での採材許可をすでに得ているので、この下水処理場の流入水および処理後の放出水から同様の実験を行なう。新川水再生プラザには札幌中心部に存在する一般施設および病院の汚水が集約して流れ込んでいることから、下水処理場でのスクリーニングによって都市の薬剤耐性菌伝播状況を検討できるかどうかを検討するとともに、通年サンプリングを実施して季節変動を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入した物品がカタログ価格よりも安く納入されたため、差額の5円が残額として生じた。金額が僅少なため、全額を次年度の物品費として使用する予定である。
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