研究実績の概要 |
1.マンホール汚水からの薬剤耐性大腸菌の検出実験により、臨床現場で問題となっている基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生株(n=44)を分離した。分離頻度は一般施設汚水(53.8%)と病院汚水(57.1%)との間で有意差はなかったが、病院汚水由来株はESBL産生によるβラクタム耐性に加えてフルオロキノロン系にも耐性を示したことから、病院汚水由来菌は一般施設汚水由来菌よりも多剤耐性化が進んでいることが示された。 2.マンホール汚水および下水処理場流入水から繊毛虫の分離を行ない、Anteglaucoma harbinensis, Tetrahymena pyriformis, Uronema nigricansなど9株の株化に成功した。代表者の先行研究では実験室株繊毛虫Tetrahymena thermophilaが薬剤耐性プラスミドの細菌間水平伝達を促進することを明らかにしていたため、下水由来薬剤耐性大腸菌ープラスミド受容用大腸菌の共培養系に繊毛虫を添加した接合伝達試験を実施した。繊毛虫添加時の伝達頻度は4.26x10^-5となり、繊毛虫非添加時の伝達頻度1.95x10^-5よりも上昇したものの有意差は認められなかった。 以上1・2より、汚水は薬剤耐性菌が環境中へ拡散する経路のひとつとして重要であり、特に病院汚水には耐性化の進んだ薬剤耐性菌が含まれていることが示された。当初は下水中に生息する繊毛虫が薬剤耐性プラスミドの伝達を促進する可能性を想定していたが、本研究の結果から必ずしもそうではないことが示された。 3.2で分離した繊毛虫Anteglaucomaを解析する過程で、この繊毛虫がLegionella pneumophilaにより殺滅されることを発見した。この性状を利用し、L.pneumophilaの新規エフェクター分子を検出する実験に着手することができた。
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