研究課題
近年急増しているうつ病や不安障害等のストレス関連精神疾患の原因として,遺伝要因のみならず化学物質等の環境要因が指摘され,発症に関わるメカニズムとして「ストレス応答系のかく乱」が注目されている.本研究では,ネオニコチノイド系農薬曝露マウスおよび培養神経細胞をモデルとし,近代特有の環境要因である環境化学物質が引き起こす「ストレス応答系のかく乱」に関するメカニズムを解明すること,加えて「ストレス応答系のかく乱」を検出可能な新規バイオマーカーおよびリスク評価法を開発することを目的とした。2020年度においては、ネオニコチノイド系農薬クロチアニジン(CLO)が次世代に及ぼす影響を神経行動学的に評価しそのメカニズムの解明に取り組んた。胎子期から離乳期にかけてCLOを曝露したマウス産子において、3週齢時には不安様行動の亢進、10週齢時には自発運動量の増加等がみられ、それぞれの時期の海馬における神経活動性の上昇や幼若神経細胞の減少等が観察された。加えて、海馬におけるトランスクリプトーム解析の結果から、3週齢時におけるカルシウムシグナリングの機能低下や10週齢時における神経およびグリアの分化促進が示唆された。また、高齢(90週齢)および若齢(12週齢)マウスにCLOを急性投与し行動学的影響を比較した結果、高齢マウスにおいては若齢マウスに影響がみられない投与容量であっても自発運動量の減少等がみられ、血中および脳中のCLOおよび代謝物濃度が高いことが明らかとなり、CLOが及ぼす行動学的影響に加齢による感受性差が存在することを初めて明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
2020年度に計画していた通り、環境化学物質が引き起こす「ストレス応答系のかく乱」に関するメカニズムをさらに明らかにしたと同時に、次世代曝露マウスモデルにおけるトランスクリプトーム解析を達成することができ、細胞モデルの結果と統合することで新規バイオマーカー候補となる因子群をいくつか抽出することができた。また、マウスモデルを用いた実験から、ネオニコチノイド系農薬が及ぼす神経行動学的影響については加齢による感受性差が存在するという新たな知見を得ている。
2021年度以降は、ヒト不死化神経細胞モデルを中心にさらに詳細な分子メカニズムの解明を目指すと同時に、トランスクリプトーム以外のレベルのオミクス解析を追加する。また、バイオマーカー候補となる因子の機能解析を行うことで、新規リスク評価法への応用に取り組む。
コロナ禍における研究中断により計画を変更したため
すべて 2021 2020 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件) 備考 (2件)
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