研究課題/領域番号 |
19K19409
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
東阪 和馬 大阪大学, 医学系研究科, 特任講師(常勤) (20646757)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 外因性微粒子 / 精神疾患 |
研究実績の概要 |
近年の疫学研究により、PM2.5といった環境中微粒子が呼吸器系のみならず、脳・神経系にまで影響をおよぼす可能性が指摘されている。しかし、その分子機構を科学的に追究した事例は少なく、外因性微粒子の動態に基づく神経細胞応答の理解という観点が欠如していた。そこで本研究は、外因性微粒子とうつ病の発症・悪化に関する疫学研究に着目し、外因性微粒子への曝露とうつ病の発症・進展機序との連関解明を試みる。具体的には、これまでに研究代表者が推進してきた、ナノ粒子(人工微粒子)の物性-生体・細胞内動態-生体応答の体系的な連関追究に係る研究基盤を礎とした研究推進を図ることで、ナノ粒子による神経細胞に対する生体応答や、その制御機構の理解につなげ、疫学研究で明らかとされた知見との紐付けを目指す。本年度は、高い消臭・抗菌効果を有することから、衣類や消臭剤など生活に身近な物に使用されているナノ銀粒子をモデルナノ粒子として用い、精神疾患の発症・悪化との関与が報告されている、神経細胞の分化・成熟におよぼす影響を解析した。その結果、10 nmのナノ銀粒子を分化誘導剤であるレチノイン酸とヒト神経芽細胞腫であるSH-SY5Y細胞に共処置することで、脳由来神経栄養因子であるBDNF のレチノイン酸による産生増加が抑制されることが明らかとなった。またBDNFの発現量を負に調節することが知られる、miRNAの発現量が上昇することが示された。本知見は、ナノ銀粒子が脳神経系の分化・成熟に関わるシグナル応答に影響をおよぼすことを示唆しており、精神疾患の発症・悪化における外因性微粒子の役割解明の一助となり得るものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画した内容に沿って、研究が進行しているため。
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今後の研究の推進方策 |
精神疾患の発症・悪化におけるナノ粒子の役割解明に向けては、ナノ粒子をはじめとした環境因子が、どこに局在・蓄積することで、どういった制御機構を介して、どのような分子病態を引き起こすのかについて明らかとすることが不可欠である。そこで次年度は、SH-SY5Yなどの細胞株を対象に、各粒子を経時的に作用させて回収した細胞を用い、経時的な蓄積性、詳細な局在を追跡する。さらに、各粒子をマウスに単回・反復経鼻曝露した際の脳組織内や神経細胞内への移行、分布、局在、蓄積などについて、定性的、定量的に評価を実施する。また、ナノ銀粒子が神経細胞の分化・成熟におよぼす影響について、神経突起の伸長を指標とした表現型を評価すると共に、神経分化マーカーの発現変動についても解析する。さらに、ナノ粒子曝露とうつ病の発症・悪化との因果関係を明らかとするうえで、ナノ粒子を曝露したマウス脳組織、あるいは神経細胞を用い、各miRNAの発現変動解析を網羅的に実施すると共に、発現変動が認められたmiRNAについては、発現抑制、強制発現系を用い、その機能解析とナノ粒子曝露による生体応答との連関について精査する。
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