水俣病の初期症状として出現する四肢末端の感覚障害は,中枢性(大脳皮質中心後回)病変によるものと,末梢性(末梢感覚神経)病変によるものとが考えられている。水俣病患者の病理組織学的検討における重要な点として,運動神経は傷害がなく,感覚神経のみ顕著に傷害されること,その傷害は軸索変性が先行しており髄鞘(シュワン細胞)には変化が見られないことが報告されている。しかしながら,末梢神経を構成する神経のなかでも感覚神経のみが傷害される分子メカニズムに関する報告例は少なく,未解明な点が多い。本研究の目的は,メチル水銀による感覚障害の発症機序について,末梢神経を構成する感覚神経(脊髄後根神経節),運動神経(脊髄前角神経細胞)およびシュワン細胞を用いて比較し,メチル水銀中毒で感覚神経優位な傷害が起こる因子を明らかにし,メチル水銀による感覚神経傷害の毒性発現メカニズムを細胞から個体レベルで明らかにすることである。 本年度は,第一に,メチル水銀の毒性を左右する既知の因子について感覚神経,運動神経およびシュワン細胞を用いて比較・検討し,感覚神経特異的な傷害を生じさせるメチル水銀輸送体を明らかにした。第二に,メチル水銀による感覚神経傷害に対するTNF-αなどの炎症性サイトカインの影響,さらに細胞死に関わるシグナル経路の関与を検討した。
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