研究課題/領域番号 |
19K19426
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研究機関 | 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 |
研究代表者 |
松井 啓史 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所, 衛生化学部, 研究員 (40827284)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 食品添加物 / 防カビ剤 / チアベンダゾール / PARAFAC |
研究実績の概要 |
チアベンダゾール(TBZ)は広く使用される防カビ剤の一つである。農産物に対しては長距離輸送時の品質保持を目的にポストハーベスト農薬として主に使用され、食品衛生法上は食品添加物に分類される。過剰量の使用は健康被害を招く恐れがあるため、多くの地域で残留基準値が定められ検査が行われている。現在、農産物中のTBZの検出方法としては液体クロマトグラフィー(LC)を利用する方法が広く用いられているが、高感度・高精度である一方で、分析に時間がかかる点や多量の有機溶媒を必要とする点、高コストな上に装置の利用に熟達した人員が必要な点が課題となっている。 そこで本研究では、3次元蛍光スペクトル(EEM)を、スペクトルを分解する手法の一つであるparallel factor analysis(PARAFAC)で解析することでレモン果実中のTBZを検出する方法を検討・開発した。検討の結果、試料の処理方法としては陰イオン交換カラムの使用により妨害成分が効果的に除去されることが明らかとなった。また、TBZを含まない9種類の異なるロットの試料に0-10mg/kgとなるようにTBZを添加し、6種をキャリブレーションデータ、3種をテストデータとして試料中TBZ濃度の予測性能を評価したところ、二乗平均平方根誤差は0.45mg/kgとなり、基準値のTBZを検出するのに十分な精度が得られた。EEMはLCに比較して迅速かつ容易に測定が可能であるため、得られた成果はより簡便な分析方法の実現につながることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PARAFACの採用によって、キャリブレーションデータに含有されていない妨害成分の混入に対して頑健な手法の開発に成功したことに加え、今後の多成分同時分析の開発も容易に行えると期待できるため。また、本研究の主眼である溶媒によるスペクトルの相違の影響も検討できたため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、食品添加物のうち、レモン果実中のTBZについて検出する方法を開発した。TBZは蛍光物質であるためEEMを利用した方法を適用可能であったが、一般には蛍光を発する物質のほうが少数である。この点は蛍光を利用した検出において選択性を高めるという利点になる一方で、蛍光を発しない物質の検出には応用できないという問題点にもなっている。そこで本年度では蛍光を発しない食品添加物への分析対象の拡大可能性を検討する。分析するデータの例としてはほぼすべての物質がピークを有する紫外可視吸光(UV/Vis)スペクトルが挙げられる。一般にUV/Visスペクトルは物質に対する特異性や感度が低いとされるが、その特異性の低さを溶媒環境の変化を利用することによって補うことができるかを重点的に検討する。分析対象物質の候補としては食品添加物のうち着色料が挙げられる。着色料の中にはpHや溶媒の種類によってUV/Visスペクトルが変化するものが複数知られており、溶媒環境に依存した分析対象に特異なスペクトル変化の存在が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症の流行により学会の参加に必要な費用が大幅に減ったため。次年度使用額は研究のデータ解析に用いるソフトウェアの拡充に使用する計画である。
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