本年度は、シロップ中のトリアリールメタン系着色料5種を同時に定量する分析法を開発した。分析対象とした5種のトリアリールメタン系着色料は、頻用される食品添加物である一方で、化学的構造や性質の類似性から従来の分析法では判別には煩雑な精製工程が必要であった。簡便な手法もこれまでに提案されていたが、5種類もの多成分を区別し定量できるほどの特異性を達成できていなかった。開発した分析法では、ケモメトリックスの手法であるMultivariate Curve Resolution法を可視吸収スペクトルへと適用することで、分析における作業工程の大幅な簡略化に成功した。可視吸収スペクトルを測定するための溶媒をいくつか検討した結果、クエン酸緩衝液と炭酸緩衝液という2種類の溶媒での測定データを統合することで、食品由来の成分によるスペクトルへの影響を抑えながら分析対象物質への特異性を上昇させることが可能であることを見出した。加えて、2次微分スペクトルを利用することでさらなる特異性の向上が得られることが明らかとなった。さらに、ガウス関数の2次導関数を基底とした基底関数展開を利用することで、予期しない妨害物質の2次微分スペクトルを推定する手法を新たに考案した。考案した手法は検証のために意図的に混入させた別の青色着色料の存在を標準品の情報なしに検出し、その可視吸光スペクトルを高精度に予測できた。 本研究では研究期間全体を通じて、溶媒種によるスペクトルの変化(ソルバトクロミズム)を利用した迅速・簡便な食品添加物の分析法の開発に成功した。開発した分析法は、対象物質の分析を高速化・簡便化するだけでなく、そのデータ解析手法の汎用性から、他の様々な物質・分析法に応用が可能であり、広範な波及効果が期待される。
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