研究課題/領域番号 |
19K19427
|
研究機関 | 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 |
研究代表者 |
梅田 薫 (中田薫) 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所, 微生物部, 主任研究員 (90332444)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 黄色ブドウ球菌 / 新型エンテロトキシン / ブドウ球菌食中毒 / 汚染調査 / 遺伝子検出 |
研究実績の概要 |
ブドウ球菌食中毒は、食品内に産生された黄色ブドウ球菌エンテロトキシン(SE)を摂取することにより発症する食品内毒素型食中毒である。食中毒を引き起こすのは主に従来型SE(A型~E型)とされ、新型SE/SEl(G型~Y型)の食中毒起因性については未解明な部分も多い。我々は、従来型SEを産生せず、複数の新型SE/SEl遺伝子のみを保有する黄色ブドウ球菌を原因とする食中毒事例を経験した。今後、従来型SEのみならず、新型SE/SElによっても食中毒が発生しうるリスクを明確にし、その成果をもって食中毒検査、原因究明、衛生指導や予防啓発等の公衆衛生に寄与することが本研究の目的である。 今年度は、食品製造施設における新型SEによる食中毒の発生リスクおよび有効な汚染対策法を検討することを目的として、食品取扱者手指、調理設備のふき取り検査を実施し、黄色ブドウ球菌の汚染調査および汚染に関与する衛生管理の要因について統計学的解析を行った。また、分離された黄色ブドウ球菌のSE/SEl遺伝子の保有状況を調査し、それらの食中毒起因性について考察した。 その結果、食品取扱者手指の17.3%、調理設備の7.1%から黄色ブドウ球菌が検出された。汚染状況と調査施設へのアンケート調査結果の統計解析より、衛生手袋使用のルール・マニュアルの策定と調理施設の消毒の実施が有効な汚染対策として挙げられた。そして、食品取扱者手指や調理設備に由来する黄色ブドウ球菌の59.8%が何らかのSE/SEl遺伝子を保有し、56.3%が新型SE/SEl遺伝子を保有していた。その中には、国内外で発生した食中毒事例に関連する新型SE/SEl遺伝子型が含まれていたことから、新型SEによる食中毒発生リスクの存在が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブドウ球菌食中毒の主要な発生要因である、食品取扱者手指等由来の黄色ブドウ球菌から高率に新型SE/SElが検出されたことにより、新型SEによる食中毒発生リスクの存在を明確に示すことができた。また、食品取扱者手指由来株のSE/SEl遺伝子型およびコアグラーゼ型はほとんどが調理設備由来株の型に含まれていたことから、食品取扱者手指は調理設備の黄色ブドウ球菌汚染に関与することが分かった。統計解析より、具体的な汚染対策を示すことができた。これらは、研究目的の一つである「衛生指導や予防啓発等の公衆衛生行政に寄与する」データとなりうることから、「おおむね順調に進展している」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
我々が経験した、従来型SEを産生せず、複数の新型SE/SEl遺伝子のみを保有する黄色ブドウ球菌を原因とする食中毒事例の分離株の解析を進める予定である。次年度は、次世代シーケンサーを用いた食中毒分離株の遺伝学的特性の解析を中心に実施する。MiNIONおよびMiSeqを用いて全ゲノムシーケンスを決定し、新型SE/SEl遺伝子群がコードされたegc2領域の構造比較やagr制御系遺伝子群の発現解析、未発表のSE遺伝子の検索、SNP解析に基づく系統樹作成、分子系統解析等を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に、次世代シーケンスやポリクローナル抗体作製を外部委託する計画であったが、当初予定していた金額よりも低い価格で委託することが可能との情報を得て調整中であったため、先に他の研究計画(食品取扱施設における汚染調査と新型エンテロトキシン遺伝子保有調査)に取り組んだ。よって、外部委託費用、外部委託を行うための消耗品費用を次年度以降に持ち越したため、次年度使用額が生じた。今年度以降、委託先を順次決定し、次世代シーケンスおよびポリクローナル抗体作製の外部委託費用を執行する予定である。
|