本研究でヒトにおける広域スペクトラムセファロスポリン(ESC)耐性サルモネラの感染状況を明らかにした。無症状なヒトの糞便(2017年)に由来した一部のサルモネラ分離菌株はESC耐性を示しており、一部のヒトがESC耐性サルモネラに感染していることが明らかになった。また、ヒト由来のESC耐性サルモネラの血清型にはInfantisのような鶏肉から分離される血清型も含まれており、鶏肉を介してヒトへESC耐性サルモネラが伝播している可能性が考えられた。 さらに、養鶏業界でのセフチオフル使用自粛後もESC耐性サルモネラが鶏肉から検出された理由について検討を行った。最終年度は鶏肉由来ESC耐性サルモネラのblaTEM保有プラスミドのデータを追加で取得し、これまでのデータと合わせin silicoで解析・比較を行い、鶏生産環境においてESC耐性サルモネラの生存に有利に働く可能性がある遺伝子を探索した。しかし、遺伝子の機能をもとに検討を行ったが、プラスミド上の特定の遺伝子がESC耐性サルモネラの生存に関与しているか明らかにならなかった。 加えて、ESC耐性サルモネラが分離される鶏肉の生産地を推定するため、安定同位体比(δ13C、δ15N、δ18O)を用いた鶏肉の生産地域推定法の検討を行った。最終年度は追加で生産地の異なる鶏肉検体の安定同位体比分析を実施し、取得済みデータと合わせ統計解析を行った。緯度の異なる6地域(国内4、海外2地域)で生産された鶏肉(各地域 n = 3)から得られた安定同位体比を用い主成分分析を実施し、第一及び第二主成分についてプロットした。プロット位置に特徴を認めた一部地域については、鶏肉生産地域の推定に安定同位体比を利用できる可能性が考えられた。しかし、測定サンプル数が豊富ではないため、サンプル数を増やし生産地による特徴をより正確に捉える等、さらなる検討が必要と考えられた。
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