臨床検査値の変化の有意性の客観的判断には、個人の繰り返し測定の結果から推定される個体内変動幅に基づいて設定される基準変化値 (reference change value: RCV)を利用することが国際的に推奨されている。しかし、この概念そのものは古くから存在するが、いくつかの問題点により、臨床ではあまり利用されていないのが現状である。 そこで本研究では、臨床的に意義のある変動なのか、それとも自然な変動なのかを客観的に判断できる新たな指標を健診データベースから推定し、臨床に応用できるかを検証する。本研究は、匿名化された既存情報を用いる後向き調査研究として実施する。分析対象とする検査項目は、収縮期血圧、拡張期血圧、中性脂肪、LDLコレステロール、HDLコレステロール、AST、ALT、GGT、総ビリルビン、ALP、総蛋白、アルブミン、血糖、HbA1c、eGFR、尿酸、白血球、ヘモグロビン、血小板である。 2021年度は最終年度であるため、成果の公表に向け最終の解析及び取りまとめ作業を実施した。具体的な成果として、検査値の変化量の有意性を客観的に判断できる新たな指標を健診データベースを用いて推定した。本研究で得られた検査値レベル別の個体内変動幅及びそれに基づく基準変化値(RCV)は、検査値変化量の有意性を客観的に判断できる新たな指標である。人間ドック学会の基本検査項目に対する判定区分に応じた形式で成果を取りまとめたため、今後広く利用されることが期待される。 また、その推定のための方法論を新たに考案した。具体的には、健診データベースを利活用し、個体内変動幅を検査値レベルに対し連続的に推定する改良法を開発した。先行研究に対し、分割幅可変アルゴリズム及び重み付き推定を取り入れることで、効率的かつ安定した推定と推定範囲の拡大を可能とした。
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