研究実績の概要 |
本研究は、労働時間と人間関係問題(インシビリティ[礼節の欠如]やハラスメント)等の職場内要因、家事・育児等の職場外要因の両方に着目し、これらが精神的健康、身体的健康、および医療安全を含む労働生産性にもたらす影響を複合的に解明する前向きコホート研究を多施設で実施することにより、我が国の労働者における精神的及び身体的不調の未然防止と、職場の安全構築に貢献することを目的とするものである。 2020年度は新型コロナウイルス感染症の流行により、現場での調査が困難であったため、他の研究者と共に研究費を支出し、全国28,000名の一般住民(労働者約16,000名)を対象にインターネット調査を行った。その上で、コロナ禍においてどのような労働者がハラスメントを受けているのかを明らかにし、ハラスメントと精神的健康との関連を横断的に検討した。 2020年4月~9月の間に、回答者の14.9%が職場でいじめ・ハラスメントを経験していた。職場でいじめ・ハラスメントを多く受けていたのは男性、配偶者なし、世帯年収の低い群、会社役員・正規職員等であった。また、職場のいじめ・ハラスメント曝露群では、そうでない群と比べて、重症精神障害リスクが3.7倍、自殺念慮リスクが2.5倍であった(いずれもロジスティック回帰分析で、性・年齢・学歴・配偶者の有無・雇用形態・業種・事業所規模・仕事の特徴・過去1ヶ月間の労働時間調整後の結果)。このことから、先行研究のいじめ・ハラスメント経験者割合(6.1%)よりも大幅に多い労働者がコロナ禍でハラスメントを経験していたこと、また、いじめ・ハラスメントを経験すると、精神障害や自殺念慮のリスクが高まる可能性が示唆された。
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