研究実績の概要 |
近年、左室収縮機能が保持されている拡張性心不全(Heart Failure with preserved Ejection Fraction:HFpEF)が増加し、その予防に向けた病態解明が求められている。糖尿病、肥満、脂質異常等の代謝疾患は自律神経機能障害と関連すること、またHFpEFの危険因子であることが報告されているが、心不全に至っていない代謝異常患者における左室拡張機能の実態は明らかでなく、さらにその病態における自律神経機能の意義を検討した論文はない。本研究は、心不全を発症していない代謝異常患者における自律神経機能と左室拡張機能の関連を耐糖能異常、インスリン抵抗性、肥満の関連から横断的に検討することを目的とした。Hyogo Sleep Cardio-Autonomic Atherosclerosis (HSCAA) Studyに登録された605名の心不全、心疾患、不整脈などを有さない代謝異常患者を対象とした。結果は耐糖能異常・糖尿病患者では左室拡張機能の有意な低下を認めた。内臓脂肪面積 100cm2以上の内臓肥満患者も、有意な左室拡張機能低下を認めた。一方、自律神経機能(SDNN, HF)は左室拡張能指標(E/A)と有意な正の相関関係を示し(SDNN: r=0.306, p<0.01; HF: r=0.341, p<0.01))、この関連はHFpEFとの関連が知られている、年齢、性別、喫煙、高血圧、脂質異常症、腎機能に加えて、HbA1c、BMI、内臓脂肪面積、HOMA-IRなどに独立して有意に認められた。このことから代謝異常患者において、自律神経機能異常、特に副交感神経機能低下は、他のリスク因子と独立して、心不全発症前から左室拡張機能に影響する可能性が示唆された。
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