成人を対象とした社会調査データを用いて、親密圏ネットワークにおけるコミュニケーション媒体と健康情報獲得の関連についての検討を行った。具体的には、社会調査において、ネームジェネレータ―法を用いて回答者の4人の親密他者(オルター)の社会的属性、その人たちとのコミュニケーション媒体(対面、電子メール、LINE、SNS)、その人たちから得られる健康情報、およびその人たちの間の社会的紐帯の有無を尋ねることによって、回答者の親密圏ネットワークを測定した。そして、回答者とオルターのコミュニケーション媒体によって、パーソナルネットワークから得られる健康関連情報が異なるか、およびその傾向が回答者の教育年数によって異なるかを検討した。分析結果から、全般的には教育年数によってオルターから得られる主観的な健康情報の有用性には差があることが示されたが(教育年数の主効果)、オルターとのコミュニケーション媒体がSNSであった場合にはその差が縮小することが示された(教育年数とSNS利用の交互作用効果)。先行研究においては、教育年数によって社会的ネットワークから得られる情報的サポート量に差があることが報告されているが、本研究の結果から、SNSを介した社会的つながりは教育年数による健康情報のギャップを縮小させる可能性が示唆された。また、健康情報の多寡の要因として、個人特性だけでなく社会関係の特性の関与を明らかにすることによって、従来の啓発・教育とは異なる行動変容のための介入方略への示唆が提示された。本成果は論文としてまとめられ、現在、海外ジャーナルに投稿されている。 以上の研究も含め、3年間の研究によって、①個人間や組織間において行動や情報が伝播しやすいネットワーク構造的特徴およびコミュニケーション媒体が示唆され、②それが社会経済的要因による健康関連行動や情報の格差を部分的に説明しうることが見出された。
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