日本では、環境基準値の設定により大規模な公害はほとんどなくなった。一方、健康意識の高まりや原因不明な健康不具合の報告もあり、目に見えない微小粒子等の微量曝露の健康影響に関心が高くなり、その重篤な健康影響も報告されている。しかし、PM2.5速報値のみで日常生活を左右される状況は、経済活動への影響が懸念されるため望ましくない。さらに、環境基準値以下の排出による低濃度曝露であっても、重度のアレルギー患者へは重篤な症状を引き起こす場合がある。また、健常人においても健康悪化リスクの上昇を引き起こすことが研究によって明らかになってきた。本研究では、気象庁気象研究所が10年以上にわたり開発改良を進めているMASINGARはエアロゾル数値モデル(予測モデル)が、健康に関連した予防に応用できないかを検討した。 越境汚染の影響を受けやすい鳥取県の住民に対して実施した自記式日記式の自覚症状調査の結果からアレルギー様症状のスコアを得た。参加した160人から16226の回答を得た。黄砂の予測地表濃度(48時間前)を計算した。解析は、一般化推定方程式を用いてリスク評価を行なった。気候(気温、湿度、気圧、風速)、環境因子(球状粒子、花粉、NO2、SO2、Ox)、および行動(マスク着用、窓開け、空気清浄機)に関するデータを共変量として用いた。四分位に分けた黄砂予測濃度が高い時[Q4]は、一番低い時[Q1]に対する呼吸器症状、鼻の症状、喉の症状の有意なリスクの上昇を示した。なお、黄砂の観測濃度(LIDAR)と飛来予測濃度の感度は83.3%だった。さらに、マスク着用による症状軽減の効果についても評価した。本研究において、黄砂の短期曝露による呼吸器症状や喉、鼻の症状を引き起こす日を48時間前に予測できる可能性が示唆された。
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