研究課題
サルコペニアは、骨格筋量の減少と筋力もしくは身体機能の低下により定義され、脂質異常症、糖尿病、動脈硬化、死亡などとの関連も報告されているが、骨格筋量・筋力がどの程度低い、あるいは低下するとリスクとなるのかを追跡して検討した報告はほとんどない。本研究では、都市部一般住民を対象としたコホート研究(吹田研究)において、骨格筋量・筋力およびその推移とその後のメタボリックシンドローム(MetS)罹患との関連を追跡検討した。吹田研究において、1989年から1994年にベースライン健診を受け、2002年から2005年の間の健診で筋力として握力を測定した者について検討した。MetS構成因子に罹患している者、心血管疾患の既往がある者は除外し、男性1779人、女性2125人を対象とした。男女別に、ベースライン時の左右両側握力の平均値で4分位に区分し、その後のMetS、およびMetS各構成因子の罹患について、Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。MetS罹患の有無は、米国の診断基準(NCEP-ATPⅢ)のアジア人用基準(①腹囲:男90cm以上、女80cm以上、②血圧:130/85mmHg以上または薬物治療中、③中性脂肪:150mg/dl以上または薬物治療中、④HDLコレステロール:男40mg/dl未満、女50mg/dl未満または薬物治療中、⑤血糖:空腹時血糖値100mg/dl以上または薬物治療中、の5項目のうち3項目以上満たす者)を用いて判定した。MetS構成因子罹患の有無は、上記①-⑤の各項目それぞれについて評価した。本研究において、性・年齢(10歳階級)別の握力の平均値は、同じ年齢階級では男性より女性で低値であること、男女ともに年齢階級が高いほど低値であることが明らかとなった。今回の解析では、握力とその後のMetS構成因子罹患に有意な関連は認めなかった。
2: おおむね順調に進展している
今年度はベースライン時の両側握力、除脂肪体重のレベル別にその後のMetS構成因子罹患について検討する予定であった。その研究計画に沿い、ベースライン時の左右の握力の平均値とその後のMetS構成因子罹患(腹囲、血圧、中性脂肪値、HDLコレステロール値、空腹時血糖値で評価)との関連を解析した。本研究で、日本人の性・年齢(10歳階級)別の握力の平均値が明らかとなった。今回の解析では、筋力とその後のMetS構成因子罹患に明らかな関連は認めなかった。その理由として、筋力が低い背景には、日常的に運動を行っていない状況以外に、虚弱体質で食事量が少ない、高所得者で生活習慣が良好であるなどの状況も混在している可能性があることなどが考えられた。
骨格筋量・筋力の低値・低下とメタボリックシンドローム(Mets)罹患との関連が明らかとなれば、骨格筋量・筋力の低値・低下を予防することでMetS各構成因子罹患、および将来的な生活習慣病、循環器病、要介護も予防が可能となる。本研究では、筋力は握力にて、骨格筋量は生体電気インピーダンス法(bioelectrical impedance analysis:BIA)を用いて除脂肪体重にて評価する。今年度は、ベースライン時の握力低値とその後のMetS構成因子罹患リスクについて検討したが、明らかな関連を認めなかった。今年度の結果を踏まえて、次年度は下記を予定している。①骨格筋量・筋力の低値とMetS構成因子罹患リスクに関する検討の継続まずは、骨格筋量と筋力に相関があるのかを明らかにする。さらに、今年度の握力についての検討と同様に、ベースライン時の除脂肪体重とその後のMetS構成因子罹患との関連について解析し、筋力と骨格筋量でMetS罹患リスクとの関連に相違があるかを検討する。また、血清インスリン値を測定し、インスリン抵抗性と骨格筋量・筋力との関連を解析する。②骨格筋量・筋力の低下とMetS構成因子罹患リスクに関する検討ベースライン時の握力・除脂肪体重を測定した2002-2005年から2010年までの追跡期間中の握力・除脂肪体重の推移のレベル別に、MetS構成因子罹患リスクについて解析する。
検体測定については、研究が進んだ段階で検討して必要なものをまとめて測定する予定としたため、今年度は実施しなかった。データ解析や文献検索などのデスクワークを優先させたため、学会参加に伴う旅費やその他の支出が予定より少なかった。以上より、次年度使用額が生じた。次年度への繰越額と次年度予算を合わせて、上記の検体測定やデータ解析、学会発表、論文化などのための経費として使用する予定である。
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Journal of Diabetes and Its Complications
巻: 33 ページ: 407-412
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Cardiovascular Diagnosis and Therapy
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