本研究の目的は、死体におけるインスリン中毒診断法として、これまで分析が困難であったインスリン製剤分析に代わる方法として、マイクロRNA変化に着目し、バイオマーカーの検索を行い、見つけられたバイオマーカ―を実際の解剖事例に応用し、死後の診断法を確立すつことである。 今年度は昨年度までに低血糖モデルの動物から採取した血液、脳から抽出したRNAを次世代シークエンサー解析し、マイクロRNAの変化を確認した。その結果、モデル群とコントロール群間で、様々なマイクロRNAの発現量に差が見られたものの、優位に変化するマイクロRNAを見つけることができなかった。 一方、申請書作成時には難しかったインスリン製剤の分析が可能になる解析ソフトが開発されたこと、また、実際のインスリン中毒事例を経験したことから、LC/QTOF-MSを用いたインスリン製剤の分析法の検討を行った。その結果、インスリン製剤4種類とヒトインスリン製剤を分離し、同定することができる分析法を開発し、実際の事例における定量分析を行い、インスリン製剤による中毒の診断へと応用することが可能となった。 本法では検出感度が高いLC/QTOF-MSと簡易な固相抽出を合わせることで、高感度、迅速なインスリン製剤の検出が可能になった。そのため、死後検出が難しかった微量のインスリン製剤の検出が可能となり、今後実際の事例への応用が可能になった。しかし、死後インスリン製剤は死後変化の影響を受け濃度変化することが示唆され、同定は可能なものの、死後の濃度の評価が難しいことが示唆された。 今後引き続きバイオマーカ―の検索を行い、LC/QTOF-MSを用いたインスリン製剤分析法と組み合わせることで、より正確にインスリン中毒の死因究明を実施できるシステムを構築していく予定である。
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