研究課題/領域番号 |
19K19485
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
名取 雄人 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (80610104)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 合成カンナビノイド / カンナビノイド受容体 / 神経細胞 / 神経細胞分化 |
研究実績の概要 |
近年、危険ドラッグの乱用が中毒死を含めた健康被害や異常行動などを引き起こし、社会的な問題となっている。このような危険ドラッグのなかでも、テトラヒドロカンナビノール(THC)と同様の作用を持つ合成カンナビノイド類は、THCや内在性リガンドと同様にカンナビノイド受容体CB1およびCB2と結合して、その活性を現す。CB1受容体は、中枢神経系において発現が高く、細胞膜とミトコンドリア外膜に存在するとされている。特に海馬では、シナプス前終末のCB1受容体の活性化がグルタミン酸の放出抑制を介して逆行性シナプス伝達抑制に関与する。 神経細胞モデルとして汎用されるマウスNeuroblastoma由来であるNeuro2Aはレチノイン酸刺激により神経細胞分化によってNeuriteを形成するが、合成カンナビノイドであるHU-210 によっても同様にNeuriteを形成する。合成カンナビノイドは一般にカンナビノイド受容体を刺激することでその作用を示すが、危険ドラッグとして規制から逃れるためにその構造に多くの修飾が加えられているため、その作用機序にはこれまでに知られていないメカニズムが存在する可能性がある。そこで本年度はNeuro2A細胞を用いて、カンナビノイド受容体アゴニストであるAM-2201 やHU-210がNeuro2A の分化に及ぼす機序の違いを調べるための予備検討を行った。Neuro2Aは先に述べたようにレチノイン酸によってもNeurite形成を示すが、培養液中の血清濃度の違いによって、レチノイン酸がNeurite形成に及ぼす影響が異なることが知られている。そこで、予備検討として、Neuro2Aの培養液中血清を変動させたところ、CB1 受容体の発現が変動した。このことから、培養液中の血清濃度によってカンナビノイド受容体アゴニストの作用に変動が生じることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は当初予定よりも進行がやや遅れている。その原因としては細胞培養のために必要な培養室の設置やその他必要な機材の取得に時間がかかったことが挙げらえる。しかしながら、すでにこのような機材の準備は終了しているため、今後研究の進行状況は改善するものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では今後主に以下の2点について検証を行う。1) CB1受容体アゴニストによるメタボローム及び遺伝子発現変動をメタボローム解析及びトランスクリプトーム解析を組み合わせたマルチオミクス解析により網羅的に解析する。合成カンナビノイドのようなCB1受容体アゴニストは細胞膜やミトコンドリア膜に存在する受容体に作用して機能を発揮する。そのため、これまでに当研究室でもCB1 受容体アゴニストによる代謝の抑制が報告されている。そこでNeuro2A細胞やラットglioma由来C6細胞を用いて、カンナビノイド受容体アゴニストであるAM-2201やHU-210 等による代謝への影響をメタボローム解析により調べると同時に、トランスクリプトームへの影響をRNA seqを用いて検証する。ここでmRNAの変動が確認されたパスウェイのタンパク質発現やリン酸化などを詳細に調べて、 カンナビノイド受容体アゴニストの毒性のメカニズムを解明する。2)カンナビノイド受容体アゴニスト類違いによる神経系培養細胞の分化に及ぼす作用の違いを調べる。危険ドラッグとして用いられるカンナビノイド受容体アゴニストは法規制を逃れるために様々な構造修飾を受けているが、そのために各々の毒性のメカニズムの違いについて詳細に調べた報告はない。そこで、Neuro2Aを用いてAM-2201やHU-210を用いてNeurite形成やその細胞の形態変化への影響を調べ、メカニズムを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
培養室や必要な機材の準備が予定よりも遅れたため、差額が生じた。すでに機材との準備は終了し、すでに研究を進めるために当該助成金を抗体や遺伝子発現解析のためのキットの購入及び学会参加のための費用や論文作成のために用いる予定である。
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