危険ドラッグの乱用は中毒死を含めた健康被害や異常行動などを引き起こし、近年社会的な問題となっている。このような危険ドラッグの多くは合成カンナビノイド類であり、大麻の成分であるテトラヒドロカンナビノールと同様に、カンナビノール受容体CB1およびCB2に作用することによってその活性を表す。CB1受容体は、中枢神経系において発現が高く、細胞膜とミトコンドリア外膜に存在するとされている。特に海馬では、シナプス前終末のCB1受容体の活性化がグルタミン酸の放出抑制を介して逆行性シナプス伝達抑制に関与する。また、CB1受容体アゴニストは記憶障害を誘引することが報告されている。 本年度は、合成カンナビノイドが培養神経系細胞の代謝に及ぼす影響を網羅的に解析することを目的とした。培養神経細胞としては汎用されるマウス由来NeurobrastomaであるNeuro2Aを用いた。CB1受容体アゴニストとしては市販されているHU-210と麻薬であるAM2210を用いた。また、CB1受容体アンタゴニストとしてSR141716を用いて前記したたCB1受容体アゴニストを薬理学的に阻害した。ガスクロマトグラフィ-タンデム質量分析計を用いて代謝物を測定いた結果、全体で、およそ100成分を検出することができた。そのうち、糖・脂質・アミノ酸やその代謝物40成分が多重比較を考慮したBenjamine and Hochberg検定を行った結果有意に変動した。これらの結果から、合成カンナビノイド受容体アゴニストが神経細胞の代謝異常を引き起こすことが示唆された。このような代謝変動は細胞死を含む細胞や組織の機能異常を引き起こす可能性が考えられた。
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