Y染色体上の一塩基多型(SNP)の組み合わせで決定されるY染色体ハプログループは、男性系統を示すマーカーとして、集団遺伝学で利用されてきた。ほとんどの日本人集団はハプログループC、D、O系統に属しているとされるが、その中でもYハプログループD1(D-M174)系統とO1b(O-M268)系統は日本人で高頻度にみられるハプログループであり、その分布も日本人に極めて偏りが強いことが知られている。特にO1b系統から分類されるO1b2a1a1系統は日本人集団の25%が属しており、より詳細な系統分類が期待される。Yハプログループを個人識別などの法医学的応用を目的として利用するためには高い識別力が必要であり、系統の更なる細分化が求められるところである。そこで、日本人のY染色体ハプログループについて、下流のサブグループを含めた細分類を改めて試みた。 血縁関係のない日本人男性567名の口腔粘膜細胞を試料とした。常法で抽出したDNAを用いて、各ハプログループを定義するY-SNPマーカーをターゲットとし、次世代シーケンスおよびサンガー法で塩基配列を決定した。 分類の結果、日本人検体はハプログループC、D1、N、O*、O1b、O2、Q系統に大きく分かれた。さらにD1系統はD1a2a1、D1a2a1a系統に、O1b系統はO1b*、O1b2a*、O1b2a1a1*、O1b2a1a1a、O1b2a1a1b、O1b2a1a1cの6種の系統に細分類され、日本人集団におけるYハプログループの識別能力を向上させることができた。一方で、O1b系統をもつ検体でY-STR解析を行い、同一ハプログループ内の二検体間におけるSTRのリピートサイズを比較したところ、ハプログループO1b2a1a1*ではリピートサイズの違いが他のグループよりも大きくなり、ここからさらに新たな系統が分かれていく可能性が示唆された。
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