研究課題/領域番号 |
19K19492
|
研究機関 | 科学警察研究所 |
研究代表者 |
深川 貴志 科学警察研究所, 法科学第一部, 研究員 (90801572)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | スタター / フラグメント解析 |
研究実績の概要 |
STR型検査では、PCRによりSTR領域(アレル)を増幅して型判定解析を行うが、その際、スタターと呼ばれる本来のアレルより1回繰返し回数が少ない副産物が生じる。スタターはPCRにおいてSlippageで生じるとされている。PCRでSlippageが発生する確率、つまりスタター発生率を測定し、スタター比率の予測を試みることが、本研究の目的である。スタターは繰返し回数・繰返し配列の種類・STR領域ではない部分の寄与等のDNA配列の様々な要素及び温度等のPCR条件の要素が複合的に作用していると考えられる。いきなりこれらの複合的な要素を扱うことは非常に難しいので、本研究では、スタター発生に関する要素が最も少ない単純なSTR領域である1種類の繰返し配列からなる人工合成DNAを用いて実験を行った。 2019年度にスタター発生率の測定手法の確立したものの、2020年度は新型コロナウイルス感染症対策のため実験が思うように進まず、特にスタター発生率の測定はあまり進まなかった。2021年度も感染症対策の影響があったものの、スタター比率及びスタター発生率の測定はおおよそ終えることができた。また、2020年度に判明した「繰返し配列の塩基組成が同じでも塩基の並び順が異なればスタター比率が大きく異なる場合がある」について詳細に検証したところ、従来いわれていた仮説「反復配列のAT含有量が高いほどスタター比率が高くなる」は、4塩基繰返し配列には当てはまらないことが示唆された。これは新しい知見であり、学術的に価値があるものと考えている。 一方で、スタター発生率が同程度の2種類の配列であっても実際のスタター比率は大きく異なるなど、スタター発生率と実際のスタター比率の関連性がみられないような場合が多くあった。スタター発生率からスタター比率の分布をシミュレーションするためのパラメータについて熟慮する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度にスタター発生率を測定する系およびスタター比率を測定する系を確立し、2020年度ではその系で複数の塩基構成および塩基の並び順の繰返し配列についてデータを取得する予定であった。しかし新型コロナウイルス感染症対策のための出勤回避等の実施により、思うように実験等ができなかったため、取得したデータのほとんどはスタター比率のものであり、スタター発生率のデータは少ししか取得できなかった。2021年度はその遅れを取り戻すべく、スタター発生率のデータを中心に取得を行った。また、2020年度に得られた新たな知見について詳細な検証を行い、従来からの仮説は4塩基繰返し配列には当てはまらないという知見に発展することができた。しかしながら、2021年度も感染症対策のため、データの取得はできたものの遅れを取り戻すまでは至らず、全体的な進捗状況は遅れたままとなっている。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度までに得られた様々な種類の配列におけるスタター発生率のデータを用いて、スタター発生率よりスタター比率の分布のシミュレーションモデルを構築する。シミュレーション結果と実際のスタター比率の比較を行い、差があれば実際の結果に近づくようパラメータの見直し・追加等を行う。また、繰返し配列が同じで繰返し数が異なる配列についてもデータを取得し、パラメータ決定の参考にする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症対策のため、実験が進まず、当初必要と考えていた試薬類の購入を控えたためである。なお、控えた試薬類は酵素等の使用期限があるものである。今回購入を控えた試薬類は、次年度使用額で購入したいと考えている。
|