研究課題/領域番号 |
19K19624
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
趙 崇来 佛教大学, 保健医療技術学部, 助教 (70758292)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 心不全 / Advance care planning / 高齢者 / 緩和ケア / End of life |
研究実績の概要 |
今年度は研究計画書に記載したように文献検討を中心に研究活動を行った。特に海外における介入的な取り組みとその方法や効果についての知見を獲得するとともに、日本の文化的背景のなかでどのように取り入れることができるのかといった視点も考察し、検討した。そこでは、欧米においてよくある事前指示書の作成や代理意思決定者の選定というACPのアウトカムを、日本の実践評価のアウトカムとしてそのまま適用することの問題を認識した。 海外におけるACPの介入研究やシステマティックレビューでは、ACPの実践により、意向に沿ったケアを受けられた、患者の満足度・QOL向上、遺族の満足度,ストレス,不安,抑うつ改善、AD(アドバンスディレクティブ)の記載が増加、医療者との話し合いとカルテ記載の増加、ホスピスの利用増加、入院の減少、延命治療の差し控え、患者が望む場所での療養・死亡の増加といった効果を示している。その有用性は明らかだが、一方で、評価指標も多様であり、日本での適用には慎重な検討が必要である。 日本におけるACPの研究は、がん疾患、非がん疾患問わず、記述研究中心で萌芽期にある。数少ない介入研究ではACPの教育ツールの評価で、ACP知識の理解度やAD作成率の前後比較したものが多く、患者への効果を具体的に示した研究は乏しい。心不全患者に対する介入的研究の論文についてはほとんどなく、関連学会に参加することで施設単位での取り組みや現状、事例報告などについて知る機会となった。医療倫理の研修会などにも参加し、医療者側が抱える終末期ケアの難しさや、倫理的ジレンマ、法的解釈の難しさなど、様々な要因が意思決定支援の実践を困難にしている現状が浮き彫りとなった。ACPの体系的なアプローチや実践の評価まではなかなかできていない現状がわかり、まずは日本における心不全患者に対するACPの実態調査の必要性を感じている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
先行研究における課題を精査する中で、まず日本における心不全患者に対するACPの論文が少なく、実践とその効果、課題など現状把握をするのに時間を要した。また、介入研究であるという性格上、フィールドの確保やチーム作りに関しても、その候補選定に時間を費やしている現状がある。先行研究でも示されているように、医療者側が認識するACPの実践における障害には時間的制約、患者との関係性への憂慮、予後予測の難しさ、症状がなく安定した時に開始することへの抵抗、トレーニングの欠如、ACPへの理解不足などの要因があり、介入のための教育やチーム作りは容易ではない。システムとしても社会的な浸透や法的なバックアップが不十分であり、体系的な方法が未確立な点もあり、その点も含め、土台形成に時間を要する。 心不全患者に対し、緩和ケアを含めたACPの実践は早期に開始すべきとの提言もある中で、治療により症状が改善し寛解を繰り返す疾患的特徴から、患者も進行性の疾患という認識が乏しい中、日本において心不全患者に対するACPの導入をどのように行っているのかという実態がわからない。本研究におけるビデオツールに収録する内容の吟味はもちろんのこと、内容検討におけるチームメンバーの確保に難渋している現状がある。 また、日本人の文化的背景から死をタブーと捉え、治療や療養の決定を他人に任せる「おまかせ医療」を選択する患者も多いという現状もある中で、どのような対象にビデオツールを用いたACP導入を推奨するのかも検討が必要であり、研究の進行がやや遅れている現状がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まずACPのチーム作りとフィールドの確保が最優先である。課題として、ACPの理解や、実践を伴う研究としての医療者側の負担もあり、その調整をいかに図るかである。 そこで、慢性心不全の認定看護師に依頼し、循環器医師の紹介を受け、自身の研究について紹介し、会議の場を設定する予定である。その上で、研究を遂行するためのチームを作りたいと考える。次にフィールドの確保についても、当該の慢性心不全認定看護師と医師と協議し、確保に向け調整したいと考えている。 ビデオツールの作成についても、研究チームができた上で具体的な内容を協議しながら、進めたいと考える。 上記の計画をまずは実行し、以降の研究計画については当初の計画に記載した内容に準じて進めたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は当初使用予定であった国外への旅費や会議運営費、ビデオツール開発費などの予算が研究の遅れやCOVID-19の感染拡大の影響もあり、未使用繰越し金が発生した現状がある。 国内外問わず、今年度の学会も今後の感染状況により大きく影響されかねない状況であり、旅費の使用については状況に応じた使用となる。フィールド調整やチーム作りにおける会議運営費、謝金、ビデオツール作成における開発費など、翌年度分の助成金と合わせ、有効に使用する。
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