世界的な高齢化に伴う認知症を有する人々の増加と共に、認知症ケアや認知症と共に生きる社会のあり方が問われ、近年は各国でdementia-friendly(認知症フレンドリー)な環境づくりが目指されている。日本では認知症を有する人々にとっての治療的・支持的環境の評価や環境づくりが確立されてきたが、認知症フレンドリーな視点から適切に環境を評価できる手法は確立されていない。 本研究の目的は、暮らしの場におけるdementia-friendlyな環境評価ツールの開発である。本ツールは、日本の高齢者向け住まいや施設がもつ特有の成立・文化背景(複数の根拠制度、多様化、生活空間の考え方や使い方)を踏まえ横断的な評価に活用でき、ユーザー中心の住まい選びにも貢献できる可能性がある。 本研究は3年間で、暮らしの場におけるdementia-friendlyな環境評価ツール日本版のプレテストとそのレビュー、修正までを行う計画である。これを2段階で構成し、第一段階でEAT-HC日本語翻訳版の作成、第二段階でプレテストおよび修正を実施する。 研究計画2年目に相当する2021年度までに、第一段階が完了した。尚、第二段階に進む前にオリジナルツール開発者へのコンサルテーションを得る予定である。第一段階では、EAT-HC日本語翻訳版の日本の高齢者向け住まいへの適用課題を検討するため、新たな調査として専門家への意見聴取を追加した。その成果として、EAT-HCを今後日本の高齢者向け住まいで活用する上で生じる、入居者の自由とリスク軽減の考え方の違い、日本・高齢者にとっての快適さやなじみやすさの文化的違いなど5点の課題が抽出された。本調査結果は、2022年6月開催のThe International Association of Gerontology and Geriatrics2022にて公表した。
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