本研究は、軽度認知障害の早期発見や予防のため、身体的フレイルやロコモティブシンドロームといった運動機能の低下が認められる者における脳活動の状態を解明することを目的に実施された。近隣市の協力を得て介護予防教室の利用者65名(男性14名、女性51名、平均年齢76.4歳)を対象とした。対象者は、運動機能(握力、歩行速度)および認知機能(言語流暢性課題、ストループ課題)、二重課題歩行(計算、バランス課題)の測定を実施し、安静時および歩行速度、認知機能、二重課題の実施時にfNIRSによる前頭前野の脳活動(総ヘモグロビン濃度:t-Hb)の計測を行った。J-CHS基準をもとに対象者をフレイル、プレフレイル、健常に群分けを行い、フレイルについては3名と極小数であったため、解析から除外した。さらに脳腫瘍の手術歴のある者、解析データが欠損している者1名ずつを除いた計60名について、波形解析を行うとともにプレフレイル群と健常群におけるt-Hbの比較を行った。健常群は27名、プレフレイル群は33名であり、年齢および性別、BMI、教育年数、認知機能に有意差はみられなかった。歩行速度では、バランス課題による二重課題を除く、他の項目にてプレフレイルが有意に低値であった。前頭前野の活動において、左前頭前野では健常群およびプレフレイル群ともに言語流暢性課題の測定時に有意な活性化を認めた。右側において、プレフレイル群は通常歩行時より有意な活性化を示し、認知機能の測定時にも有意な活性化を認めた。一方、健常群では言語流暢性課題の測定時にのみ有意な活性化を示し、プレフレイル群よりも高い活性化を示した。これらのt-Hbにおける反応の差異が、運動機能の低下した高齢者に対して認知機能の低下を早期に発見する手がかりとなる可能性があると考えられた。
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