統合失調症患者の地域生活継続には認知機能が重要とされるが,認知機能障害の原因は明確になっておらず,機能が回復するか否かを見極めることが困難である.申請者は認知機能の「予測」に着目し,予測に基づく手の動きの質的・量的評価,また統合失調症者の「予測の障害」と認知・社会機能との関連性の検討を通し,「予測」に着目した評価方法の確立を目指した. 初年度は,予測に基づく手の動きを評価する「重りの負荷課題」の簡便な計測方法とし,手に装着した加速度センサデータの利用を検討し,重りの負荷のタイミングに先行した手の動き(先行反応)が確認された.また先行反応と認知機能との関連性について,統合失調症の社会的予後に関連する認知機能低下と先行反応との関連性を調べたところ,先行反応が生じにくい場合,発症後の認知機能低下が大きいことが確認され,先行反応と認知機能との関連性が示唆された.次年度,次々年度は初年度の成果を基に,より簡便な方法とし,携帯内蔵のセンサおよびアプリを用いて,課題の実施方法と測定,解析方法を検討した.従来の測定装置,手に装着した加速度・角速度センサデータと同様に予測に基づく手の動き「先行反応」を捉えられることを確認し,特別な装置の購入なく,課題を実施できるようになった.また先行反応だけでなく,時定数,重り負荷後の運動の大きさ,安定性等が評価指標として検討できる可能性を見出した.またこの課題を同日の反復練習後および24時間後の実施により,運動学習の評価としても有効である可能性が示された.最終年度はこれまでに蓄積した実験データ解析を自動化した.これにより,測定のみならず解析がスムースに行えるようになった.また高齢者のデータを測定し,認知症の予測に役立つ可能性が示唆された.今後,統合失調症患者にとどまらず,認知機能障害の評価手段とし,様々な疾患,高齢者等を対象に研究を継続していく予定である.
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