本年度は第1の研究テーマを「筋性拘縮の発生機序におけるミトコンドリアの恒常性の変化の影響」に設定し,14日間不動化したラットヒラメ筋を組織学・分子生物学的検索に供した.結果,NADH-TR染色像およびSDH染色像における単位面積当たりのoptical densityやミトコンドリア融合因子であるmfn-1のmRNA発現量,mt DNA発現量は不動群が対照群より有意に低値を示した.また,ミトコンドリア分裂因子であるdrp-1のmRNA発現量は不動群が対照群より有意に高値を示した.すなわち,不動化した骨格筋ではミトコンドリア融合因子の発現低下とミトコンドリア分裂因子の発現亢進が生じ,これらの変化がミトコンドリアの恒常性の破綻に影響を及ぼす可能性が示唆された.そして,昨年度までの成果と併せると,ミトコンドリアの機能不全によって活性型caspase-3を介した筋核のアポトーシスが誘導され,マクロファージの集積を発端とした線維化関連分子の発現亢進が生じ,筋性拘縮が発生すると推測される. さらに,第2の研究テーマとして「筋性拘縮に対する理学療法学的戦略の開発」を掲げ,ベルト電極式デバイスを利用した筋収縮運動(15分/回,1回/日,6日/週)が筋性拘縮の発生予防に有効であるか否かを検討した.その結果,不動化したラットヒラメ筋に対してベルト電極式デバイスを利用した筋収縮運動を負荷すると,筋核の減少が抑えられ,マクロファージの集積を介した線維化関連分子の発現亢進を抑制され,線維化,ひいては筋性拘縮の発生を予防できることが明らかとなった.以上の結果から,ベルト電極式デバイスを利用した筋収縮運動が筋性拘縮の有効な予防戦略になり得る可能性が示唆された.
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