研究実績の概要 |
肩関節後方関節包が正常に比して硬い状態すなわちタイトネスは野球選手に特徴的で、投球障害肩との関連が深い。タイトネスに対する治療・予防として臨床場面ではストレッチングが用いることが多いが、これまで後方関節包に受動張力が強く加わる効果的なストレッチング肢位については一定の見解が得られていなかった。 これまで我々は、超音波剪断波エラストグラフィを用いた弾性計測により、力学ストレスの一つである関節包の受動張力を非侵襲的に推定評価可能であることを報告した(Iida et al., J Biomech, 2020)。この知見に基づき、我々は未固定凍結人体標本9肩を用い、様々なストレッチング肢位における肩関節後方関節包の受動張力を超音波剪断波エラストグラフィで評価し、効果的なストレッチング肢位を検証した。ストレッチング肢位を正確に規定するため、三次元電磁気センサーで関節角度を計測した。ストレッチング強度はプッシュプルゲージを用いて全ストレッチング肢位で統一した。結果、後方関節包中部に受動張力が強く加わる肢位は肩甲骨面挙上30°位での内旋と肩挙上60°位での水平内転、後方関節包下部に受動張力が強く加わる肢位は肩屈曲30°位での内旋であることが示された(Iida et al., J Shoulder Elbow Surg, 2021)。本研究では、生体での計測と同じく、肩関節後方の筋や皮膚をすべて残存させた状態で後方関節包の受動張力を評価した点が新規的な点である。加えて、屍体肩を用いたためストレッチングの強度や関節角度を正確に規定できた点が強みである。今後は、これらのストレッチング肢位が野球選手にも有効か検証する必要がある。
|