本研究目的は,対麻痺者用歩行補助ロボットWPALを用いた坂道歩行における適切な歩行器操作時期を解明することである.最終年度となる今年度は,転倒につながる姿勢変化を再現し,構築した歩行器と歩行者との距離計測システムを用いて坂道歩行における距離の変化から練習課題の明瞭化を行った. WPALを用いた歩行の成熟者を対象として,坂道歩行の登りと下りを行わせた.評価指標は歩行器と歩行者との経時的な距離変化とした.計測には,ワイヤ式変位計を用いた.計測坂道の勾配は,10%(約5度)とした.模擬的な転倒につながる姿勢変化は,対象者の坂道歩行中に,歩行器の動きを物理的に妨げて再現した.具体的には,対象者がWPAL歩行中に歩行器を押すタイミングで実験者が歩行器の前方移動を妨げ,転倒につながる姿勢変化である歩行器と歩行者の過度な接近状態を再現した.取得した距離データから,歩行器と歩行者との距離の変位と,その変位が生じた時間を算出した.結果,登り坂道では0.9~2.2秒で189.2~244.9mmの接近が生じ,下り坂道では1.4~1.7秒で215.3~347.1mmの接近が生じた.本研究によって,歩行器と歩行者の接近状態は,1.5秒程度で生じることが明らかになった.さらに,登り坂道は下り坂道よりも歩行器と歩行者が接近しやすい事が明らかになった.坂道は,平地よりも重力の影響が生じるため歩行中の歩行器操作が難しい.そのため,WPALを用いた坂道歩行における適切な歩行器操作時期は,歩行器が接近する両脚支持期の初期であり,本結果を踏まえてWPAL坂道歩行練習を実施することが望ましいと考える.
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