痙縮の治療法として経皮的電気刺激療法は治療ガイドラインに掲載されているが,麻痺のある患者の皮膚を露出させること,ディスポーザブル電極のコストがかかることなど,日常臨床での使いづらさがある.一方,末梢磁気刺激には経皮的電気刺激療法の欠点がなく,電気刺激と同様の痙縮抑制効果を得られることができれば有用である.2019年度は予備研究として,健常成人を対象に下腿三頭筋に様々な刺激強度の磁気刺激と経皮的電気刺激を与え,筋電図・誘発電位装置を用いてヒラメ筋から導出したH波/M波の最大値比にて痙縮軽減効果を検討し,感覚閾値未満および感覚閾値以上運動閾値未満の磁気刺激強度で電気刺激と同様の効果が得られた.2020年度は健常成人11名を対象に下腿三頭筋に感覚閾値未満の磁気刺激15分と30分,感覚閾値以上運動閾値未満の磁気刺激100回,経皮的電気刺激15分,コントロール群として安静15分の5種類の介入を実施した.ヒラメ筋から導出したH波/M波の最大値比にて刺激効果を検討した.いずれの刺激もコントロール群と比較し刺激前後で有意にH波/M波の最大値比の低下を認めた.また,感覚閾値未満の磁気刺激15分よりも30分の刺激と感覚閾値以上運動閾値未満の100回の磁気刺激は有意に効果が高かった.2021年度はコロナ感染症の蔓延等で十分な症例数を集められなかったが,脳卒中による痙縮患者5名の麻痺側下腿三頭筋に感覚閾値未満の磁気刺激15分,30分,経皮的電気刺激療法15分,安静15分の4種類の介入を実施した.15分,30分の磁気刺激,電気刺激ともに刺激前後でH波/M波の最大値比の低下を認めた.本研究は特定臨床研究として行い,その結果から運動閾値未満の磁気刺激は新規の痙縮治療法として有用であることが示唆された.また治療機器の開発の観点からは,機器をより小型化できる感覚閾値未満の磁気刺激装置が有用と考えられた.
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