本研究の目的は新たな足部type分類を定義し,ランニング障害の発生機序の一端を解明することであった.申請者はこれまで前足部の剛性が亢進するとランニング障害が発生しやすいと仮説を立てて,主にバイオメカニクスの視点から研究を実施してきた.昨年度までに立脚後期で後足部に対して前足部が外転する扁平足と内転する扁平足が存在することを明らかにし,扁平足と一括りにするのではなく,歩行や走行中の足部挙動に基づいた機能的分類が必要になること,さらにその運動を伸張性歪みセンサーで解析でき,実際に走行中の足部挙動を変化させるサポーターを開発してきた.そこで研究の最終段階として,このサポーターを用いて,長時間のランニング中に足部の運動を制動することで,下腿筋硬度の上昇を抑制できるかを検討した.研究デザインは二重盲検化ランダム化クロスオーバー比較試験とした.定期的なスポーツ活動を実施している大学生を対象に,トレッドミル上での1時間のランニング(時速8㎞,昇り傾斜7%)を実施した.すべての対象者で,ランニング前後に腓腹筋内側頭,外側頭,ヒラメ筋,長趾屈筋,長・短腓骨筋の硬度を超音波画像診断装置のせん断波エラストグラフイーモードを使用して計測し,ランニング前および後の各筋の硬度をサポーターの有無で比較検討した.その結果,長趾屈筋の硬度のみサポーターの有無で有意差を認めた.長趾屈筋は距舟関節の安定化機構として作用するため,ランニング中の足部挙動の制御が不必要な長趾屈筋の筋活動を抑制したため,筋硬度上昇を抑制できたと考えた.
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