本研究は、手根と手指運動の関連に着目し、健常者および脳血管障害などによる運動麻痺をもつ患者を対象に手根の運動能力と様々な手指機能検査との関連を調べること、またその基盤となる神経機構について健常者を対象に調べることであった。 2022年度は、急性期病院において脳血管疾患例(発症~1か月程度)を対象に手根の力計測や手指機能の計測などを行った。modified Ashworth Scaleを用いて運動麻痺を評価したところ、ほとんどの患者で麻痺を示すことはなかったが、握力やつまみ力は有意に減弱し、小さなブロックを移動させる課題やペグ反転課題などを用いて評価した手指の巧緻運動は非麻痺側よりも有意に遅延していた。手根の力計測では、非麻痺側と比べて、麻痺側において伸展および尺屈方向の力が減弱傾向を示した。今後、回復期や慢性期患者および年齢を合わせた健常者との比較が必要である。 脊髄神経機構の検索については、手根の伸筋である橈側手根伸筋由来の低閾値求心性神経から指の運動に関わる筋群(母指球、小指球、第一背側骨間筋、浅指屈筋)の運動ニューロンに対して促通性神経投射について、単シナプス性の経路をとること、筋紡錘由来のIa神経由来であることを明らかにした。また、これらの反射が存在する一方、主に巧緻運動に作用する母指球や小指球、第一背側骨間筋の運動ニューロンには反射の結合が弱く、粗大把握に作用する浅指屈筋の運動ニューロンには強い結合をもつことが示唆された。
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