研究成果の概要 本研究の目的は神経疾患患者の障害特性に合わせて重心動揺のフィードバック量を変化させることで安全かつ効率的な立位姿勢の獲得を促すことであった。上記目的を達成するために、病型や疾患特性の異なる脊髄小脳変性症患者を対象に、重心動揺と同方向に床面が追従する装置を用いて感覚フィードバック量を減少させた際の姿勢安定性および姿勢制御に与える影響について検証した。いずれの患者も重心動揺のフィードバック量を減少させることで患者の重心動揺が減少した。また、フィードバック量を減少させている間だけでなく、フィードバック介入実施後の通常の静止立位において、下肢の同時収縮や過緊張が減少し、重心動揺に対するヒラメ筋活動の遅延が軽減した。失調症状の進行に伴って立位時の制御特性が変化し、重心動揺が増加したものの、症状が重症化した後も重心動揺のフィードバック量を減少させることで安定した立位保持が可能となっていた。
研究成果の学術的意義や社会的意義 リハビリテーション領域において、運動学習や姿勢安定性の向上を目的とした感覚フィードバック練習は主として視覚情報が用いられており、意図的に動揺範囲を減少させるように指示をする方法が広く用いられている。しかしながら、視覚フィードバックは効果の保持が限定的であることが報告されている。本研究で用いた手法は患者自身に対して意図的な指示をせずに感覚フィードバック量を変調させることができ、ヒトが本来有している自律的な調節を無意識に促すことが可能となる。本研究成果は、神経変性疾患患者をはじめとする姿勢バランス障害を呈する患者のリハビリテーション手法の一つとして適用できると考えられる。
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