令和4年度は、母趾爪振動刺激の有無による歩行中の床反力や関節トルクの変化など、これまで計測してきたデータで運動力学指標の分析を進めた。結果として、床反力や関節トルクなど力の大きさに変化は認められなかった。一方で、床反力鉛直成分と前後成分におけるピーク値の変動は、振動無し時に変動が大きい人ほど変動が小さくなった。この結果は、運動学データと同様に歩行中の体重支持の変動が大きい人ほど、振動刺激の効果が認められることを示唆している。 さらに、ウェアラブルな慣性計測装置を使用して、長距離歩行における母趾爪振動刺激が歩行中の関節角度に与える影響について検討した。光学式モーションキャプチャでは、詳細なデータが計測できる一方で、計測範囲が限られるため数歩しか計測できない。したがって、長距離の歩行で持続的に振動刺激を与えた時の変化を検討した。対象者は約30mの廊下を快適な歩行速度で歩行した。全身の各体節に対して合計13個の慣性計測装置を貼付した。振動刺激により股関節の可動範囲が約7%増加した。また重心の側方移動が減少し、変動も小さくなった。 これらの結果から、母趾爪への振動刺激より力学的負荷を減らすことはできないが、体重支持を安定させることができることや前額面上での歩行修正を無意識的に行うことができることが明らかになった。計測室外の歩行においては、これまで計測してきた計測室内でのデータと同様の結果が認められることを確認することができた。
|