研究実績の概要 |
本研究の目的は、頚髄損傷における呼吸機能低下が、嚥下障害や誤嚥性肺炎に及ぼす影響を明らかにすることである。その目的に対する研究計画として、以下 の実績を示すことができた。 頚髄損傷患者に対する嚥下障害の重症度と呼吸機能の経時的な評価・測定を行い、嚥下障害と呼吸機能障害の頻度および相関関係を明らかにした。受傷後2週間以内に急性頸髄損傷で当院に入院した患者を前向きに評価し、 嚥下機能は嚥下障害臨床重症度分類とFunctional Oral Intake Scale(FOIS)で, 呼吸機能は咳嗽時最大呼気流量・1秒量・1秒率・%肺活量を2・4・8・12週で評価し, 経時的変化と相関関係を解析した. 症例数は33例で、経時的変化として, 嚥下障害と呼吸障害は有意に改善していた. 咳嗽時最大呼気流量, 1秒量, %肺活量は各時期において嚥下機能の重症度に有意な相関関係を認めた. 結論として、呼吸障害と嚥下障害は密接に関係しており, 特に咳嗽力の評価は嚥下障害の評価にも重要な役割を果たすと思われた. 次に、誤嚥性肺炎の発生率と危険因子を調査した。受傷後2週以内に入院した急性期頚髄損傷167例を対象として、肺炎の有無・年齢・嚥下障害の臨床重症度分類・ASIA impairment scale・受傷高位・肺活量・喫煙歴・気管切開を調査した。結果としては、肺炎は30例(18%)に発症していた。そのうち誤嚥に関係する肺炎は26例(16%)であり、肺炎のうち誤嚥性肺炎の占める割合は87%であった。肺炎に対する有意な危険因子は、AIS AまたはB、そして誤嚥の存在であった。結論として、外傷性頚髄損傷後の肺炎は、誤嚥性肺炎の占める割合が非常に高かった。また重篤な麻痺や嚥下障害は肺炎の有意な危険因子であった。臨床の現場において、麻痺の重篤な頚髄損傷では嚥下障害に伴う肺炎に十分な注意が必要と思われる。
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