研究課題/領域番号 |
19K19871
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
小坂 祥範 琉球大学, 医学部, 委託非常勤講師 (10835242)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経障害性疼痛 / 疼痛行動評価 / K+, Cl- 共輸送体(KCC2) / ミクログリア / 神経変性と再生 / 自走式回転式運動具 / GABA |
研究実績の概要 |
坐骨神経痛をはじめとする神経障害性疼痛は、世界規模の健康問題である。近年の研究により、その発症原因の1つとして、γ-アミノ酪酸(GABA)の機能異常が注目されているが、詳細は不明のままである。本研究は、まず、モデルマウスを用いて GABA伝達の異常を介する神経障害性疼痛の発症メカニズムを明らかにし、続いて、 同じモデルマウスに運動療法を加えることにより、GABAの機能異常および疼痛が改善されるか明らかにすることを目的として行っている。 モデルマウスは、坐骨神経の枝である脛骨神経を結紮した場合と切断した場合の2種類作製した。このモデルマウスを材料として、疼痛行動評価、組織学的変化、腰髄後角におけるGABA伝達に関連する分子の発現変化、さらに、GABAの作用に影響を与えるミクログリアの変化を解析した。その結果、神経の変性にともなって、ミクログリアの活性化、KCC2の発現低下とGABAの抑制機能の低下が起こり、痛覚過敏が発症するという流れが明確に示された。この成果は、Brain Research誌に掲載された。続いて、適切な運動負荷をかけることにより、モデルマウスにおける疼痛閾値が正常化するか。GABAの機能異常が正常化するかを解析し、そのメカニズムを明らかにし、運動療法の効果を検証しようと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.10―12週齢雄マウスを用いて、脛骨神経を結紮して径を半分にする「結紮モデル」と、「切断モデル」を作製し、以下の点を解析した。 (1) von Freyフィラメントを用いた機械的刺激の閾値による疼痛行動評価、 (2)第4-5腰髄後角におけるシグナル分子の変化、 (3)脛骨神経の組織学的変化。その結果、以下の点が明らかになった。①「結紮モデルが」長期間疼痛が持続する神経障害性疼痛モデルとして適している。②「結紮モデル」、「切断モデル」両方において、脛骨神経の変性が早期から進行し、閾値の低下(疼痛)とGABAの作用を抑制性に導くK+, Cl- 共輸送体(KCC2)の発現低下(抑制性の低下)が同調し、KCC2低下よりも先んじてミクログリアが増加していた。この事から、脛骨神経の変性がミクログリア活性化、KCC2の発現低下を導き、 GABAの抑制作用が減弱する事で、疼痛を発生・持続させるという経路が示された。③ 両モデルの90日時点での違いから、神経疼痛の発症と持続では異なる要因によって惹起されると考えられた。この研究結果はBrain Research誌に受理され、2020年4月号に掲載された。 2.1.の結果をもとに、3か月にわたって長期に疼痛過敏が継続する脛骨神経結紮モデルマウスを用いて、運動療法の効果を検証する実験を開始した。まず、結紮手術を施行したマウスを、トレッドミル方式と回転式(自走式)の運動器具を用いて運動負荷を加えるとともに、運動量を解析した。その結果、自走式回転式の方が多くの運動負荷をしかも持続してかけることが可能であり、非手術群とほぼ同等の回転数の運動をすることが明らかになった。この結果をもとに、モデルマウスにおいて、自走式の運動器具を用いた群と運動器具の無い群において比較検討する方針が決定された。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況で述べた通り、次年度は、以下の方法で運動療法の効果を検証する予定である。 実験方法(1)動物: C57BL/6J成熟雄マウスを用いる。(2)手術:深麻酔下、左脛骨神経を直径が2分の1になるまで8-0ナイロン糸で結紮する。(3)運動療法:回転自走式の運動器具を各ケージに入れ、走行距離(回転数)を経時的に計測する。コントロール群には、運動器具を入れない。(4)疼痛行動評価:von Frey法を用いて、疼痛閾値の変化を90日目まで測定する。(5)シグナル分子の発現変化:Brain Research誌に発表した論文と同じ方法で発現変化を計測する。ターゲットとする分子は、GAD, VGAT, KCC2の3分子とする。(6)ミクログリアの活性化:脊髄後角における活性化ミクログリアの密度をIba1の免疫染色によって計測する。 解析方法:回転自走式の運動器具を入れた群と入れない群(通常ケージでの飼育)において、上記の内容を比較検討する。特に、① 疼痛行動評価の推移、② KCC2の発現変化、③ ミクログリア密度の変化、に注目する。そして、① 運動療法により、疼痛行動評価が何日目から有意に改善するか、② 疼痛行動評価の改善に伴って、シグナル分子の発現、活性型ミクログリアの密度に変化が現れるか、③ ①②の変化は、運動量に依存しているか、などを解析検討する予定である。 目指すもの:脛骨神経の障害によって発生かつ持続する疼痛閾値の有意な低下が運動療法によって改善するかを明らかにし、その改善のメカニズム、運動療法の量などを明らかにし、神経障害性疼痛への運動療法の可能性を明らかにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大予防のため、学会出張等が中止になり旅費の使用が無かったため。
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