本研究の当初の目標は,末梢神経への磁気刺激による肩こりへの効果を,被験者の主観的な感覚に加えて経頭蓋磁気刺激を用いて皮質脊髄路興奮性から明らかにすることであった。しかしながらcovid-19の感染拡大により十分な実験環境を整えることができず,目標に関連した以下の実験及び成果を得た。 まず初年度および2年目で疼痛における電気刺激に対する磁気刺激の優位性を明らかにした。被験者の前腕遠位に様々な刺激強度での電気刺激ならびに磁気刺激を行い,手関節背屈運動を誘発した。同程度の手関節背屈運動が生じた際の疼痛及び不快感を比較したところ,磁気刺激の方が有意に低い結果となった。 最終年度では,磁気刺激の代替として作用機序が類似する電気刺激を用いた際の肩こりへの効果を,棘上筋への刺激効果という観点から検証した。棘上筋の弱化による僧帽筋上部線維の過剰な収縮が肩こりの要因の1つとして想定されていることを利用して,電気刺激による棘上筋の筋収縮の誘導を図った。ただし,電気刺激単体では表層筋への刺激に限定されるため,深層筋である棘上筋へ刺激することは難しい。そこで皮質脊髄路の興奮閾値を低下させる運動イメージを電気刺激と組み合わせ,その際の刺激効果を肩関節外転運動および棘上筋厚より検討した。その結果,運動イメージを組み合わせた電気刺激による肩外転角度は電気刺激単体と比べて有意に大きく,これら結果は運動イメージによって棘上筋の興奮閾値が低下したことを示唆し,運動イメージを併用した電気刺激による深層筋へのアプローチの応用可能性を期待するものとなった。
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