脳卒中片麻痺患者の歩行中の転倒予測には,歩行速度や歩幅などの歩行指標が用いられてきた.しかし,脳卒中片麻痺患者は歩行の非対称性や非定常性といった疾患特有な歩行障害を呈すため,従来の歩行指標からの転倒予測は不十分であり,「歩容(歩き方)」に着目した.本研究は,脳卒中片麻痺患者の歩行中の関節角度を用いた歩容と転倒との関連を明らかにすることを目的としている. 2019年度は健常成人と脳卒中片麻痺患者の関節角度を用いて運動学歩行非対称性の指標を作成した.関節角度の時系列データから,正規化相互相関関数(the normalized cross-correlation)を用いて運動学的歩行非対称性の指標を作成した.脳卒中片麻痺患者は健常成人と比較して著明な運動学的歩行非対称性を認めることが明らかになった. 2020年度は運動学的歩行非対称性の指標と身体機能・バランス・日常生活活動(ADL)などの臨床指標との関連を検討した.運動学的歩行非対称性は歩行速度やバランス,ADLと関連することが明らかとなった.研究成果の一部を論文にて公表した.また,転倒歴のデータ収集が不十分であったため,副次アウトカムの転倒恐怖感と歩容の関連を検討した.股関節と足関節の運動学的歩行非対称性指標が転倒恐怖感と関連することを明らかにした.運動学的歩行非対称性は転倒恐怖感を介して日常生活活動の狭小化やそれに伴う身体機能低下に繋がる可能性がある. 2021年度は共同研究施設にて脳卒中片麻痺患者の歩行データ,臨床指標,転倒歴などの追加データを測定した.転倒歴が複数回のものは,転倒をしていないものと比較して,歩行速度が遅く,歩行は非対称性で転倒恐怖感が高いことが明らかになった.今後もデータを蓄積し,より精度の高い結果を求めていく必要がある.
|