研究実績の概要 |
脳卒中は患者数が350万人と推計され国民の健康福祉及び医療経済への影響が大きい。2018年には臨床アウトカム志向の診療・介護報酬の同時改定が行われ、質の高いリハ医療が必要とされる中、患者の社会復帰は未だ十分に達成できていない。慢性期の脳卒中患者において、運動機能改善は難しいとされ、特に日常生活動作に密接に関連する「肩関節の抗重力方向への運動」に関しては、治療手段が非常に限られているという課題がある。 本研究内で、2019年に脳卒中片麻痺患者における肩屈曲運動時の関連筋における筋電パターンの測定を行った。肩関節屈曲の主導筋である三角筋前部線維の活動の強弱が一つ目の要素として確かめられた。また、脳卒中患者の異常な筋シナジーに関連する上腕二頭筋、大胸筋等の活動の強弱が独立した要素としてわかった。この二軸での分類が可能であることが確かめられた。 次に、治療ターゲットの同定、すなわち最適な介助量にて運動をすることで筋活動パターンが変化しうるのかが確認された。最適な介助量は、筋シナジーパターンに関連する筋活動を抑制しながら、三角筋の筋活動を落とさない、もしくは向上させるものであり、最も効果が期待できる治療ターゲット層は、肩関節屈曲時に三角筋の筋活動が消失しておらず、異常な筋シナジーパターンを強く呈している患者であることがわかった。 これらの実績により、治療対象のターゲットが明確になったため、2020年度には肩機能障害に対するロボットリハビリテーションの効果の検証介入を行った。脳卒中慢性期患者1名において肩挙上機能障害に対し、ロボットにより重力をアシストをした肩挙上訓練が行われ、運動機能の改善、および患者自身の自覚的な動きやすさを示した。 これらにより、肩関節挙上に対する新たな治療方法のfeasibility, POCを達成した。今後、多症例での長期介入を行うための知見が得られた。
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