研究実績の概要 |
過度な運動は骨格筋の損傷を惹起し, 機能低下を招く. 単回の筋損傷であれば, 機能低下は時間とともに回復するが, 加齢や病態による筋の脆弱化により繰り返し筋損傷が生じると機能低下は進行する. 本研究では, この進行する機能低下の病態を明らかにすることで, 予防する治療介入の確立に寄与できる知見が得られることが期待される. 本年度は, 初めに伸張性収縮を用いた単回の筋損傷モデルを作製し, 筋力を指標とした機能低下を追跡した. その結果, 損傷1日後に対して2日後にさらに機能低下が進行することが明らかとなった. そのため, 当初予定していた繰り返し損傷モデルの作製に進むのではなく単回の損傷筋の病態解明を優先し, 組織学的解析を行った. 損傷2日後の筋では炎症性細胞の浸潤がなく膨化した変性所見のみの筋線維から炎症性細胞の貪食が進んでいる筋線維まで幅広い変性過程が確認された. そこで次に筋損傷を誘発する上流因子である細胞内カルシウムイオン濃度動態を解析した. 伸張性収縮後には限局された細胞内カルシウムイオン濃度上昇部位が確認されたが, この濃度上昇部位は時間経過とともに筋線維の長軸方向に伝播することが明らかとなった. また伸張性収縮による濃度上昇部位の発生やその後の伝播機構に筋小胞体のリアノジン受容体が関与することが確認された. これは運動による筋損傷メカニズムの一端を明らかにするものであり, 治療介入の確立に寄与する知見となることが期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は, 筋損傷モデルとして伸張性収縮による筋機能低下が追跡できるプロトコルを作製し, さらに伸張性収縮後の細胞内カルシウムイオン濃度動態をリアルタイムで観察できる実験系を確立した. また筋損傷メカニズムの一端に筋小胞体のリアノジン受容体が関与することが明らかとなった. しかし, 動物モデルの作製と濃度動態を観察できる系の確立に時間を要し, 当初予定していた計画に対して進捗がやや遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は単回の筋損傷後の機能評価を行い, 損傷1日後も機能低下は進行中であることが明らかとなった. そこで当初予定していた繰り返し損傷の動物モデル作製を変更し, 筋損傷後の細胞内カルシウムイオン濃度動態の解析を行った. そこから細胞内カルシウムイオン濃度上昇は時間経過とともに伝播し, 進行していくことが明らかとなった. これより次年度は単回の筋損傷後の病態進行メカニズムの解明を中心に, その抑制介入を探索する予定である.
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