研究実績の概要 |
過度な運動は骨格筋の損傷を惹起し, 機能低下を招く. 単回の筋損傷であれば, 機能低下は時間とともに回復するが, 繰り返し筋損傷が生じると機能低下は進行する. 本研究では, この進行する機能低下の病態を明らかにすることで, 予防する治療介入の確立に寄与できる知見が得られることが期待される. 初めに, 単回の伸張性収縮による筋損傷後の機能変化を追跡した結果, 損傷1日後に対して2日後に機能がさらに低下することが明らかとなった. そのため, 当初予定していた繰り返し損傷モデルの作製に進むのではなく, 筋損傷を制御する細胞内カルシウムイオン濃度の動態を解析することを優先した. その結果, 伸張性収縮直後に観察された細胞内カルシウムイオン濃度上昇部位は, その後筋線維内を伝播するように進行し, かつ新たな細胞内カルシウムイオン濃度上昇部位が出現することが明らかとなった. そこで, 筋損傷後の介入として代表的なアイシングの効果を検証するために, 細胞内カルシウムイオン濃度上昇部位に及ぼす影響を調べた. その結果, 温度低下は筋小胞体によるカルシウムイオン濃度制御機構に影響を及ぼし, 伸張性収縮後の細胞内カルシウムイオン濃度上昇部位を拡大させることが明らかとなった. これはアイシングが筋損傷を悪化させる危険性があることを示唆するものであり, 実際に組織学的な筋線維損傷や機能低下はアイシングにより増悪した. これらより細胞内カルシウムイオン濃度のin vivoイメージングは筋損傷に対する介入効果を検証する上で有用であることが示され, 筋損傷の治療を行う上で温度管理の重要性が示された.
|