研究課題/領域番号 |
19K19899
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研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
加藤 健治 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 健康長寿支援ロボットセンター, 室長 (30771216)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生活支援ロボット / コミュニケーション支援ロボット / 発話分析 / 機能的核磁気共鳴法 |
研究実績の概要 |
本研究では、高齢者を対象として、乳幼児の様々な声や表情によって惹起される心理脳神経基盤を検証するとともに、得られた知見を基に、コミュニケーション支援ロボットの改良に繋げることを目的としている。本年度は、機能的核磁気共鳴法(fMRI)を用いた実験系の構築のうち、コミュニケーション支援ロボットとの触れ合いにおける高齢者の心理反応を検証するため、ICレコーダーを用いた発話・感情分析の開発を進めた。初めに、コミュニケーション支援ロボットへの声掛け内容を定量化するため、既存の自動文字起こしアプリ(IBM Watson speech to textおよびwriter.app)を用いて、録音データに含まれる発話内容のテキスト化を試みた。初めに、介護施設を模擬した環境(共有スペース等におけるテレビ音や会話音が含まれる環境)での音声データを用いて若年者の日常会話9分間の録音をテキスト化した。全体の単語認識率はともに8割を超え、日本語形態素解析による形容詞・形容動詞の認識率は約7割であることを確認した。次に、テキスト化された発話情報を用いて、感情を推定するためのポジティブ・ネガティブ語を検出した結果、「ありがとう」「よかった」「美味しい」「きれい」「好き」等のポジティブ語とともに、「さみしい」「悪い」「ごめん」「痛い」「しんどい」等のネガティブ語を抽出できることを確認した。最後に、介護施設における共有スペース内を中心とした日常会話の録音(200分程度)を取得したが、方言が含まれる発話では認識率が低下する等、感情推定のための課題点について抽出した。今後も、高齢者の発話内容から、例えば赤ちゃん型コミュニケーションロボットへの声掛け回数や、ポジティブ・ネガティブ語の検出による感情推定を行うことで、触れ合いによって惹起される心理脳神経基盤の検証を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、機能的核磁気共鳴法(fMRI)を用いた音声聴取課題に使用する音声サンプルを作成し、心理反応を計測するための行動実験系の構築を進めている。昨年度は、機能的核磁気共鳴法を用いた実験系の構築および撮影条件の検討を進めるとともに、発話推定分析によるコミュニケーション支援ロボットの技術改良に繋げるための予備的検討を行った。初めに、乳幼児の縦断的な音声データベースを基に音声聴取課題に使用するための刺激選定を行い、音声聴取によって惹起された心理反応(快・不快度)を判定するための行動実験系の構築を行った。また、コミュニケーション支援ロボットへの触れ合い中の高齢者の発話内容から、声掛け回数やポジティブ・ネガティブ語を検出する手法の開発を進めた。来年度において、若年者および高齢者を対象とした脳計測実験を開始するための対象を選定中である。また、生活支援ロボットへの展開については、主にロボット側の発話推定精度の向上を目的とした予備的検証を進めた。特に、発話者とマイクとの角度に特徴的な技術課題について抽出できた。次年度は、それらを克服するための精度向上を目指したコミュニケーションロボットの技術改良について取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、若年者と高齢者を対象とした乳幼児の音声聴取課題におけるfMRI計測実験を進める。行動指標によって得られた心理反応を基に、Statistical Parametric Mapping解析を用いた各刺激音声(笑い声、泣き声、独り言、喜び等)聴取時における脳賦活領域の特定や、それらの世代間による相違に注目して解析を実施する。さらに、生活支援ロボットへの展開を見据えて、コミュニケーション支援ロボットと触れ合っている最中の高齢者の発話や表情から、感情を推定する手法についても開発を進めたい。また、生活支援ロボットの技術改良については、これまでに抽出した技術課題(複数での同時発話や発話者の移動時、録音時のマイク角度における精度低下)を克服するための音声聴取・音声認識システムの改良について取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度購入予定だったfMRI実験系構築に必要な備品が、共同研究先にてすでに保有しており、未使用分を今年度における生活支援ロボット技術改良に伴う備品購入に割り当てる。また、当初の研究計画通り、今年度においてもfMRI実験に係るMRI使用料、被験者謝金、その他、学会発表に伴う費用が発生するため。
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