本研究では,高齢者を対象として乳幼児の様々な声や表情によって惹起される心理脳神経基盤を検証するとともに,得られた知見を基にコミュニケーション支援ロボットの改良に繋げることを目的としている.本年度は,これまでのウェブ調査および乳幼児の音声サンプリング作成を基に本実験を実施・解析した.具体的には,計241名の女性(若年女性群:出産経験無し,若年女性群:出産経験有り,高齢女性群:出産経験無し,高齢女性群:出産経験有り)を対象として,3種類の乳幼児音(笑い声、クーイング、泣き声)に対する心理反応をウェブアンケートベースで調査することで,女性の年齢と出産経験に基づいて肯定的および否定的な乳幼児音(笑いおよび泣き)に対する推論と感情共鳴の変化を評価した.ウェブアンケートにおいては,各音声ファイルの聴取後に「乳幼児の音声を聞いた際の自身の快度/不快度」および「乳幼児の音声から感じる乳児の快度・不快度」について回答してもらい,11段階のリッカート尺度を用いて乳幼児音の価値観を推定した.その結果,感情共鳴の分析より,笑いとクーイング音においては,自己と推定乳児の快/不快度の相関係数が,若年女性群(出産経験有り)と高齢女性群において,若年女性群(出産経験無し)よりも大きいことがわかった.しかしながら,泣き声における相関係数は,4群間で差がなかった.これらの結果は,乳児の快/不快度に対する感情的共鳴の程度は,肯定的な乳児の声において,年齢と出産経験によって増加することを示唆している.以上の知見は,産学連携ワークショップなどを介してシーズ側へフィードバックし,高齢者の見守りやコミュニケーション支援を目的とする次世代ロボットの開発戦略について議論することができた.
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