本年度は,①前距腓靱帯(anterior talofibular ligament; ATFL)損傷によって生じる足関節前方不安定性が,慢性足関節不安定症(chronic ankle instability; CAI)の足関節不安定感や疼痛などの症状にどのように影響を及ぼすか,②ATFL損傷はCAI患者における足関節底屈筋群の静的筋弾性に影響を及ぼすか,の2点に着目して研究を実施した。 ①健常大学生を対象に健常群34名・Coper群49名・CAI群39名をリクルートした。ATFLの性状を超音波画像診断装置にて観察し,関節運動テスタを用いて足関節前方変位量を測定した。その結果,CAI群ではATFLの異常が多く,健常群と比較して足関節前方変位量が大きかった。一方,Coper群とCAI群で足関節前方変位量に有意差は認めず,疼痛や不安定感と足関節前方変位量に有意な相関は認めなかった。足関節捻挫既往者の足関節前方不安定性と疼痛や不安定感の関連は少ないことがわかった。 ②CAI患者20名をATFL損傷群11名と非損傷群9名に分類した。膝関節伸展位および屈曲位で,足関節底屈40度から背屈20度まで受動背屈した際の足関節底屈筋群(腓腹筋内外側頭・ヒラメ筋・長腓骨筋)の静的筋弾性を超音波剪断波エラストグラフィ装置にて測定した。その結果,ATFL損傷群は非損傷群と比較して足関節背屈20度におけるヒラメ筋の弾性率が有意に低かった。ATFL損傷によって生じる足関節前方不安定性が足関節背屈時のヒラメ筋弾性に影響を及ぼしている可能性が示唆された。 本研究課題に関する結果の一部は,国内関連学会での発表,関連学術誌に掲載されるとともに,現在複数の学術誌に論文を投稿中である。
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