脳波計測中の随意運動では運動野でα波およびβ波帯域の事象関連脱同期(ERD)が記録される。近年、ERDを計測して四肢に装着したロボットにより運動をサポートするブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)の研究が盛んである。しかし、重度の運動障害をもつ障がい者や患者ほどERDの出現が抑制され、BMIの適用が難しい。過去に我々は、周辺視野への注意を伴う運動でα波帯域のERD(α-ERD)が頭頂・後頭部に拡大することを示した。本研究では更に発展させた検討課題として、周辺視野内での注意対象の位置や移動方向によってERDがどのように変化するかを調べた。 健常者計21人を対象に、空間注意課題を組み合わせて運動時の脳波を計測した。被験者は周辺視野内を一定のスピードで時計回りまたは反時計回りに周回する視覚指標を観察しながら手関節の随意運動を行った。短時間フーリエ変換を用いて脳波の時間周波数解析を行った。 運動開始時点の指標の位置と移動方向によってERDの出現強度や分布に影響がみられた。α-ERDの頭皮上分布は主に頭頂・後頭部で優位となり、運動開始時点の指標位置の左右半視野と同側半球で増大した。α-ERDは視覚指標が上方向に移動中に運動した場合に増大したが、逆に下方向への移動中では抑制された。これは左右の手のどちらで運動した場合も同じ結果であった。さらに、α波帯域だけでなくβ波帯域のERD(β-ERD)でも指標位置の左右半視野と同側の頭頂・後頭部で増大が確認された。β-ERDは前頭部優位であったが、空間注意条件による影響は頭頂・後頭部で現れた。
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