脳卒中後遺症である運動麻痺に伴う肩関節亜脱臼は臨床において頻発し,その発生頻度は過去のレビューでは17~81%と報告されている.肩関節亜脱臼の発生は,肩関節周囲に痛みを引き起こす大きな要因となり,日常生活活動や運動を阻害する.そのため肩関節亜脱臼の発生を予防することはリハビリテーションにおける重要課題の一つである.肩関節亜脱臼の発生予防に対する従来の手段として,肩関節周囲筋への電気刺激があるが,刺激時に痛みが生じることや長時間かつ高頻度で刺激する必要がある等,臨床現場で実用的に使用する上での課題があった.そこで本研究では,皮膚に存在する侵害受容器を刺激しない磁気刺激を用いて,肩関節亜脱臼の予防効果を検討した.なお,本研究は臨床研究審査委員会により特定臨床研究としての承認を得た上で開始した. 2019年度は肩関節亜脱臼を生じた患者を対象に,最も有効な磁気刺激の標的筋および刺激条件を検討した.その結果,棘上筋,三角筋(後部),棘下筋が有効な刺激筋であると考えられた.また刺激条件は,刺激レベル70以上,周波数30Hzとし,肩関節にかかる牽引力を枕などで支えた姿勢で刺激することが適切と考えられた.これらの条件をもとに本研究課題である脳卒中後の肩関節亜脱臼予防に対するランダム化比較試験を開始した. 2020年度は本試験を継続し,対象への介入および評価を行い,データを採取した.対象は肩関節亜脱臼の程度を示す肩甲骨の肩峰と上腕骨の骨頭間距離が0.5横指以上でない(明らかな亜脱臼を認めない)脳卒中片麻痺患者50例であり,2020年度は11例(研究全体で合計41例)のデータ採取が完了した. 2021年度も本試験を継続し,合計50例のエントリーおよびデータを採取が完了した.データ解析の結果,通常のリハビリテーションに磁気刺激を併用した場合,肩関節亜脱臼の発生を予防できる可能性が明らかとなった.
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