加齢による転倒増加の要因を明らかにするために高齢者および若年者の歩行計測実験を実施する必要があった。令和4年度は自身の異動もあり、運動計測実験については実施することが出来なかったが、新たに周南市役所こども・福祉部地域福祉課および周南公立大学に協力を仰ぎ高齢被験者募集については開始することが出来た。 これまでに計測していた高齢被験者6名分の解析については着実に進めることが出来た。若年者歩行解析において遊脚中期に足先が地面に最も近づく瞬間に、股関節に対する足先高さのばらつきを抑える下肢関節間の相補的連携(関節間シナジー)が強く働いていると報告がある。本研究課題における高齢者群でも同様の関節間シナジーが強く働いていることが確認できた。一方で床に対する足先高さのばらつきは若年者に比べて高齢者の方が大きくなっていた。したがって、遊脚中期における加齢による一歩ごとの足先高さのばらつきの増加は、関節間シナジーの機能低下ではなく、股関節高さの不安定さに起因している可能性を示した。つまり、高齢者が歩行中につまずく要因の1つは体幹部の安定性の低下にあることを示唆する結果を得た。 研究課題の目標は解析結果から得られた知見を基にした転倒予防トレーニングの提案にあった。上記解析結果は6名分であることや全員女性であったため被験者数を増やして検証する必要があったが、研究期間を通して新型コロナ感染拡大防止のため被験者を増やすことが出来なかった。しかし少ない被験者とはいえ、股関節に対する足先高さのばらつきを抑える関節間シナジーが働いていることや、床に対する足先高さのばらつきが加齢によって増加することなどそれぞれは先行研究で発表されている内容と同様の結果であり、加齢によって転倒が増加する要因に体幹部の安定性が起因しているという重要な知見を得ることが出来た。
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