小脳は学習を行うことで内部モデルを構築し、日常の運動をスムーズに行うことを実現していると考えられている。さらに、その内部モデルを長期記憶として形成することによって、より安定的な運動を実現している可能性があるが、内部モデルがどのようなメカニズムで長期記憶へと移行しているのかについては明らかにされていない。本研究では、(1)プリズム適応課題を応用したヒトの行動実験を行い、どのような条件で長期記憶へ移行するのかについてを調べる。 (2)理論 的枠組みを構築し、小脳の内部モデル機能を明らかにする。(3)この理論的知見に基づき、クリニカルインデックスを開発し、脊髄小脳変性症患者の小脳の運動 学習機能を測定し、臨床への貢献を目指す。
当該年度もCOVID-19感染拡大の影響が続き、新規の被験者数を増やすことが困難であった。さらに、同一被験者の長期間での繰り返し計測ができない状況が続いた。しかしながら、ヴァーチャルリアリティー(VR)技術と赤外線センサによるモーションキャプチャー技術を応用したシステムの開発が成功し、獲得した内部モデルの時間による変化や眼球運動の計測から被検者の戦略変更の有無等より詳細に長期記憶へのメカニズムを探る環境の構築が進み、社会情勢を鑑みながら計測も少しずつ進めることができた。また、脊髄小脳変性症の進行に伴う内部モデルの変化についての成果を論文にまとめ、採録された。基礎的な理論的枠組みとして理論式の構築に成功し、小脳内部モデルが関与する運動について脳の計算原理も明らかになった。この理論モデルは未知なる小脳疾患の病態を予測したため、成果を論文にまとめて投稿準備中である。
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