研究課題/領域番号 |
19K19944
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
雨宮 怜 筑波大学, 体育系, 助教 (90814749)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マインドフルネス / スポーツ / アスリート / 感情調整 / 実力発揮 / 競技能力 / 集団 / 瞑想 |
研究実績の概要 |
アスリートにおけるメンタルヘルスの問題は、競技パフォーマンスの低下やチーム内対人関係の不和、また最悪の場合には、ドロップアウトや自殺の問題を導くことが知られている。しかしながらアスリートは、メンタルヘルスの問題やその支援に対して、一般の人々以上にスティグマ:偏見を有しており、支援の提供を避けがちであるとともに、メンタルヘルスの調整よりも競技能力やチームワークといった、競技成績と直結しやすい側面への効果を期待しやすく、メンタルヘルスの問題への対応は二の次となりやすいことが知られている。 このような状況を打破するためには、特定の心理プログラムを実践することによって、アスリートのメンタルヘルスとパフォーマンス、そして集団適応を促進する、包括的な効果を導く心理プログラム法の開発と実践が求められる。近年、そのような効果を実現する方法として、アスリートのマインドフルネス(自己客観視能力)という心理的能力を高めるプログラム(マインドフルネス・プログラム)の効果が注目されはじめているが、上記の3つの側面に対する効果については、十分に検証は行われてこなかった。 そこで本研究課題として令和2年度では、令和1年度に準備した、マインドフルネス・プログラムの効果予測を意図した縦断的調査ならびに、マインドフルネス・プログラムの有効性検討のための実践研究を実施した。その結果、マインドフルネスの高さが将来のパフォーマンスやメンタルヘルスの状態を予測することが明らかとなった。さらに、新型コロナウィルス感染拡大禍において、対面でのプログラムの実践が困難となったことから、オンラインでのマインドフルネス・プログラムの実践を行った。その結果、マインドフルネスを高めるプログラムを一定期間実践することで、パフォーマンス低下の程度が減少し、メンタルヘルスの問題を予測する感情調節不全の問題が改善されるなることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和2年度の研究の進捗状況として、当初の計画以上に進展していると評価することができる。本年度の研究計画において、申請者はマインドフルネス・プログラムの実践による効果検証を行うことを予定していた。しかしながら新型コロナウィルス感染拡大によって、集合型の心理プログラムの実践が困難な状況となり、当初は、研究計画通りの進展が難しい状況となった。そのような状況を打破するべく、オンライン会議システムならびに調査システムを活用することによって、オンライン・マインドフルネス・プログラムの実践やその効果検証が可能となり、計画の通り研究を遂行することができた。さらに近年では、オンライン心理プログラムの効果が注目されているが、アスリートに対する実践は、活用例が限られている。本研究で行ったオンラインマインドフルネス・プログラムの実践は、アスリートに対する心理プログラムの実践において、新たな試みや知見を提供するものであり、それによって、当初の計画以上の進展をすることができたと考えている。研究の結果、一定期間のオンライン・プログラムを通してマインドフルネスの能力に変化が生じたアスリートにおいては、新型コロナウィルス感染拡大禍というストレス状況であっても、パフォーマンスの低下が減少し、感情調節能力が改善されるという効果が確認された。また一方では、効果が認められなかったアスリートの特徴として、抑うつ不安のスコアがプログラム開始時点から高いことが確認された。そのため本研究の成果として、プログラムの有効性に関する個人差についても明らかにすることができ、実践的な知見も確認することができた。 上記の結果は、学術的成果として発表するべく、令和3年9月に開催予定である国際スポーツ心理学会(ISSP)において発表する予定である。またその後、早急に論文として発表するべく、準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
令和1年度ならびに2年度の研究においては、アスリート個人が有するマインドフルネスのスキルの効果や、個人のマインドフルネスのスキルを高めることを目的として、一定期間のマインドフルネス・プログラムの実践効果を、心理指標の変化を基に確認した。今後、本研究の成果をより詳細かつ、個人や集団といった多様な側面から検討するためには、アスリート個人に対する効果だけではなく、チーム単位でのマインドフルネス・プログラムの実践による効果について検討することが求められる。そこで令和3年度においては、チームを対象として、一定期間のマインドフルネス・プログラムの実践を行うことによる効果について、検討を行う。 昨年度の研究においては、新型コロナウィルスの影響により、当初予定していた対面でのプログラムの実践は困難であった。この状況は本年度も続くことが予想され、本年度も昨年度と同様に、対面・集合型での心理プログラムの実践は難しいことが推測される。そのため本年度の計画においても、日本や研究実施地域の感染状況に鑑みながら、昨年度と同様に、インターネット会議システムを活用したオンライン上でのマインドフルネス・プログラムの実践を行う。その際、個人の競技パフォーマンスやメンタルヘルスといった心理指標への効果だけではなく、集団効力感や凝集性といったチームに関する指標の変化にも注目することによって、アスリート個人だけではなく彼らが所属するチームに対するプログラムの効果について検討を行う予定である。 今後、令和1年度ならびに2年度の研究成果について、国際スポーツ心理学会において、研究報告を行う予定である。さらに、令和1年度ならびに2年度において得られた研究成果についても、学術論文を執筆し、早急に国内外の学術雑誌へ投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題において令和2年度では、アスリートのマインドフルネスを高めるプログラムによるメンタルヘルス、パフォーマンス、そしてチームワークに対する効果を予測するため、実践研究を計画していた。その研究の中で、対象者に特定の会場へと集合してもらい、集団でプログラムを実践する計画をしており、そのための経費としての謝金を計上していた。さらに、これまでの成果を日本だけではなく世界に発信するために、国際会議で発表することを予定しており、そのための旅費を計上していた。しかしながら、新型コロナウィルス感染拡大禍という状況において、オンラインでのマインドフルネス・プログラムの実施に変更したことから、対象者の時間的拘束や集合の必要がなくなり、謝金など実践に伴う費用の支払いが不用となった。また国際会議も延期やキャンセルとなったことから、その分の旅費を使用せず、令和3年度実践研究の設備準備や対象者への謝金ならびに、国際会議などの参加費として計上し、処理を行う予定である。
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