研究実績の概要 |
本研究の目的は,柔道の投げ技における体格差が投げられる人の頭部に生じる並進・角加速度を検証し,危険要因とされている体格差の影響を明らかにすることである. 2023年度は,体重差による投げられる人の頭部加速度の変化を明らかにするため,実験データの分析および解析を行った.被験者(投げられる人)は男子大学柔道選手の60kg級から100kg級までの12名とした.実験協力者(投げる人)は,重量級の男子大学柔道選手とした.実験における測定試技は,投げられる人が真後ろに倒れる「大外刈り」とした. 測定機器は3軸加速度および角速度センサを使用した.センサは身体運動面の矢状面の左右方向をX軸,前額面の前後方向をY軸,水平面の垂直方向をZ軸とし,市販のヘッドギアの頭頂部に取り付けた. 実験は,投げられる人が頭頂部にセンサを取り付けたヘッドギアを装着し,投げられた際の頭部加速度を測定した.分析項目はX・Y・Z軸の最大となる並進加速度,角加速度,合成の並進および合成角加速度とした.体重差の影響を比較するために,投げられる人の体重を軽量級4名(60kg級,66kg級),中量級4名(73 kg級,81kg級),重量級4名(90kg級,100kg級)に分類し,前額軸まわりの頭部最大角加速度に対して分散分析を行った.有意な差が認められた場合,Tukey-Kramer法による多重比較検定を行った. その結果,頭部最大角加速度について,重量級が中量級を投げた値は,重量級が重量級を投げた値よりも有意に高く,重量級が軽量級を投げた値よりも有意に高い傾向を示した. したがって本研究では,大学柔道選手において,投げる人と投げられる人の体重差が大きくなればなるほど頭部外傷のリスクが高くなるとは限らないことが示唆された.また,投げる人は自身よりも少し体重の軽い者を投げた場合,頭部外傷のリスクが高くなることが明らかとなった.
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