研究課題
近年注目されている運動による抗老化作用としてはミトコンドリアの量および質の改善効果が示唆されているが、その詳細な分子機構は不明確なままである。本研究は、骨格筋による全身への運動効果伝播機構を細胞外マトリックス分子パールカンによるメカノトランスダクションの観点から解析している。本年度は昨年度作成した尾部懸垂による免荷モデルに加え、トレッドミル運動による運動負荷モデルを作成した。特に、パールカンは細胞外マトリックス分子としてメカニカルストレスを感受しやすいことが予想されるため急性運動モデルにおけるパールカン欠損マウスと野生型マウスの発現遺伝子プロファイルを比較したところ、パールカン欠損マウスでは野生型マウスに運動負荷をかけた際に上昇する運動シグナルの一部が非活動下でも既に上昇した状態にあることがわかった。一方、パールカン欠損マウスに運動負荷をかけた際に更にアップレギュレートされる運動シグナルは比較的少なく、上昇すると期待されたPGC1aの上昇率もパールカン存在有無では大きな差はみられかった。これには運動強度や期間による更なる検討が必要ではあるが、パールカンは運動シグナル受容体を非活性状態に維持することに寄与しており、欠損下でさらに運動強度を上げたとしても効果が得られにくいのではないかと考えた。加えて、野生型マウスの運動前後ではヘパラン硫酸糖鎖の硫酸化を修飾する酵素の発現が低下していたことから、運動によりパールカンのヘパラン硫酸鎖の糖鎖修飾が生じることで、メカニカルストレス受容体のON/OFFが調整されている可能性が示唆された。今後、野生型マウスにおける運動時のヘパラン硫酸鎖の変化および運動シグナル変化の比較解析をすることで、パールカンによるメカノトランスダクション機構の詳細解析を目指す方針である。
2: おおむね順調に進展している
今年度は運動負荷モデルの解析を中心に行ったが、これによりパールカン欠損下で動く運動シグナルの絞り込みが進むとともに、運動刺激によるパールカンの構造変化の可能性を見出した。また、昨年度より行っている培養系でもパールカン欠損筋管細胞では易興奮性があることを確認しており、マイオカインなどの液性因子を含む運動効果をもたらす治療標的分子の解明に役立つものと考える。
今年度見出された結果から、運動前後でのパールカンの定量的解析等を検討する。また、上述の通り、培養細胞系でもすでにパールカン欠損筋管細胞での易興奮性を見出していることから、電気刺激やストレッチチャンバーによる運動負荷モデルとの比較解析、リコンビナントパールカンの添加実験等を行うことで、パールカンを介したメカノトランスダクション機構の詳細解明、ならび運動効果をもたらす治療標的分子の同定を目指す。
解析方法を一部変更したことから、次年度への繰り越し額が発生した。
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